4月の投稿書籍

MISSINGワーキングガール雛 の 鮨元気食実践マニュアルウエハースの椅子
ファスティングダイエSNOW QUEEN  雪のやってられない月曜日テムズのあぶく1ポンドの悲しみ
リトル・バイ・リトル東京タワー  オカンと城を巡るのがおもしろしょっぱいドライブ痴人の愛

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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

痴人の愛 谷崎 潤一郎

痴人の愛


8年前、河合讓治は浅草のカフェ・ダイアモンドでウエイトレスの
卵だった奈緒美に出会った。
当時28歳だった讓治が、わずか15歳の彼女に惹かれたのは、
西洋人のような奈緒美という名前が気に入ったからである。
奈緒美は顔もスタイルも西洋人に近く、知的な雰囲気を
醸し出していた。

讓治は栃木県宇都宮出身で、中学校を卒業して上京し、蔵前の
高等工業学校を出て技師として大井町の会社に勤務している。
月給150円で、芝口の下宿から会社へ通い、経済的にも裕福で
真面目なサラリーマンは、足繁くカフェに通い、奈緒美と
活動写真や食事をともにするようになる。

容姿も収入も悪くない讓治が、その年齢まで独身だったのは、
女性を自分の理想に仕立ててから愛し合い結婚したいという
願望のためだった。

その思いを叶えるべく、奈緒美を引き取って大森の省線電車の
線路に近い洋館を借り、そのお伽噺の家へ移り住んだ。
隣り合わせた部屋で寝起きし、交代に朝食を作って食べ、
讓治が会社に行っている間、奈緒美は花壇の手入れをしたり、
英語と音楽の稽古に通ったりと、ママゴトのような
2人の生活が始まった。

りっぱなレディーに育てたいと思っていた讓治だったが、
次第にその期待は裏切られ、妖婦となっていく奔放な奈緒美に
嫉妬心を抑えられなくなり、やがて破滅へと……

本書は、谷崎潤一郎が関東大震災のため、関西に移住した翌年の
1924年3月から1925年7月にかけて、前半は『大阪朝日新聞』に
掲載され、後半は雑誌『女性』に連載された耽美主義の代表作である。


痴人の愛 (新潮文庫)痴人の愛
(新潮文庫)

(1947/11/12)
谷崎 潤一郎
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

小説 と ノビル と春の香

Wild Garlic

以前読んだ『植物図鑑』(有川浩著)に出てくる、たくさんの野草たち。
どれも道端や川原に生えていそうな身近な草花である。
なかでもぜひぜひ食べてみたいと思っていたノビル。

どこにでもありそう、なのに未だ見つけることのできなかったわたしに、
友人が「田んぼの土手で伸びていたから、摘んできたよ」と、届けてくれた。

はじめて目にする、その姿は『植物図鑑』で読んで想像した通りの見目形。
わけぎをひと回り細くしたような、緑鮮やかな長い花茎の下には、
白く可愛らしい球根を持つ可憐な多年草。

お味噌やモロミなどを付けて食べるのもいいし、ヌタにしても合うらしい。
小説のなかでは、確かパスタの具材として使い「コリコリ感がたまらない」と
形容されていたように記憶しているが、ビギナーのわたしは、とりあえず
軽く湯がいて、単純に信州味噌を乗せていただくことにする。

根を切り落とし、花茎を少し残して切り揃え、沸騰したお湯に数分。
素早く粗熱をとり、ほんの少しお味噌を付けて、口に放り込む。

お〜、思っていた通りの歯ごたえ。
エシャロットに似た辛味とエグミは、まさに大人の味⁈
ん〜、はる〜!
と、4月も残りわずかな晴れやかな朝、目と舌で春を感じる幸せ。

そして残しておいた少し小さめの球根は、我が家の庭に植えてみた。
来年の春には、ノビルが伸びるように!と、願いを込めて。

テーマ : つぶやき
ジャンル : 日記

しょっぱいドライブ 大道珠貴

しょっぱいドライブ

たぶん60代前半、撫で肩で細い腰、天然パーマでシミと
たるんだ手首はちくわのように見え、内股で走る女の子の
ような印象の九十九英雄さんと親しくなったのは2年前。
近所だから、ガキ大将の父とは小さいころからの
付き合いだったらしい。

父も兄も、人のいい九十九さんにお金を借りたり、
こまかいことを相談したり、なにかとお世話になっているのに、
「いいカモだ」とか「哀れ」だとか、好き放題言っている。

わたしと同級生だったキバちゃんと兄が結婚して、2階の2人の
部屋から階下へ、“みしみし” という音と“高音の声” が伝わり、
いたたまれなくなったわたしは町を出た。

釣り道具屋を営んでいた父はすでに他界し、それを継いだ兄は、
結局お店をつぶしてしまった。
わたしは九十九さんに30万円くらい、借金をごまかしたままだ。
九十九さんは「差し上げる」とお金を差し出してくれるけれど、
わたしは少しずつ返している。
でも、完済してもきっと罪悪感は消えない。

何もない町での、海へのドライブは3回目で、性交のようなことを
1度したが、別居しているものの妻帯者であるのに、九十九さんは
リードしてくれなかった。

3年前、処女を奪ってくれた遊さんとでは、全然速度が違うように思う。
憧れのスターだった遊さんとの密会は、劇団の近くにある安宿で、
宿泊代も食事代もわたしが払った。
遊さんはわたしより4歳上の38歳で、男優兼劇団の主催者であり、
離婚経験者である。
遊さんにはたくさん取り巻きがいるが、行為は“子ども”そのもので、
2回関係を持って、もう3年ほど会っていない。

この町が嫌いだと言って若者は去り、映画館も遊ぶところもない、
発展しない漁師町を、九十九さんとドライブデートしながら、
心の中では遊さんとのことばかり思い出しているのに、この町で
好ましいのは九十九さんだけだと、つくづく感じる。

コンクリートのうえに釣り人が投げつけた、食べられないふぐ。
干からびながら半分生きているふぐを、のけ者扱いされた自分と
重ねてしまうわたし。
暗すぎる未来かもしれないと思いながら、九十九さんとの
デートに安らぎを覚える。

遊さんはわたしを気持ち悪がっていたかもしれないというやるせない
思いと、仕事を辞めたいと願う状況から、九十九さんに
「いっしょに暮らしませんか?」と、言った直後、
それは嫌だと思う。
感情が二分され、身動きができなくなる。
悲観的なとしよりが自分にはぴったりだと、先の短い九十九さんの
介護に生きがいを見出しては、心のなかでそれを否定する。

それほど好きでもない。でも嫌いでもない。この人といれば、
苦しみが少し減るかもしれない。
本心に気づいた相手が悲しい表情をすると、慰めの嘘をついてしまう。
でも、それでいいんじゃない⁈
そんなに気負って生きることないんじゃない⁈
この町の空のように、どんよりグレーな、人間の心に棲む
打算と妥協と諦念が描かれた芥川賞受賞作。
ほかに『富士額』『タンポポと流星』収録。

しょっぱいドライブしょっぱいドライブ
(2003/02/25)
大道 珠貴
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

城を巡るのがおもしろくなる本 今泉慎一

城を巡るのがおもしろくなる本


信州が誇るものといえば、北アルプスから中央・南アルプスなどに至る、
パノラマに連なる山々。
信州そばや山葵にりんご、あんずや栗など、厳しい気候ゆえ
恩恵を賜る特産物。
そして烏城(からすじょう)と異名を持ち、漆黒にそびえる
国宝松本城。

県外から友人が訪れると、1度は案内するのが、その松本城である。
春には薄桃色に染まる桜並木の下で、白鳥や鴨が涼しげに泳ぐお堀。
藤棚や梅林なども楽しめる本丸庭園。
天守に上がると、昇降の行き違いができないほど狭く急峻な階段。
石落としや狭間のため、外気がよく通る壁。

過日も友人を松本城に案内した際、天守を観覧しながら、
ふと不思議に思い、案内してくださった方に訊ねてみた。
「極寒の松本で、こんなに風通しがよくて、当時のお殿さまや
お姫さまは寒くはなかったのでしょうか?」
「大天守は戦いのために造られた建造物なので、基本的に
居住されてはいませんでした」と、丁寧に教えてくださった。
愚かな質問をしてしまった後悔と、無知を思い知らされたことに、
せめて自分の故郷の知識ぐらい勉強しておかなければと
自省していた折り、Amazonの日替りセールで本書に出会い、
すぐにワンクリックで購入。

第一章 築城の不思議
第二章 戦いにまつわる城の謎
第三章 人と城、かかわりの不思議
第四章 城にまつわる呪いと伝説
第五章 見逃せない城鑑賞ポイント一
第六章 見逃せない城鑑賞ポイント二
六章で構成された本書は、築城の成り立ちや城主、攻城戦の歴史、
基本構造はもちろん、地域での特色、大奥事情や城にまつわる
伝説まで載っている、お城好き・歴史好きにも郷土愛の持ち主にも、
興味深い1冊。

城を巡るのがおもしろくなる本 (扶桑社文庫)城を巡るのがおもしろくなる本
(扶桑社文庫)

(2010/09/01)
今泉 慎一
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン リリー・フランキー

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

空に向かってまっすぐ聳える東京タワー。
それは強く、美しく、凛々しく、そして孤独であるからこそ
惹かれ、憧れる。

3歳まで、ボクとオカンとオトンは福岡の小倉でいっしょに
暮らしていた。
オトンは酒乱で、たびたび酔っ払っては、わめき暴れながら
帰ってきたらしい。
オトンの思い出といえば、不在がちなことと、絵を描いている
後ろ姿だけだった。

よく笑い、周りに気を配り、家事が好きだったオカンは、
ボクが4歳のときに、ボクを連れて家を出た。
筑豊の炭鉱町で、オカンと2人の生活が始まり、やがてボクは上京する。

ボクのために生きたオカン。
東京タワーを目指して挫折し、故郷に帰ったオトンと、幻想とともに
上京して、戻る場所がなくなってしまったボクと、東京でいっしょに
暮らし、やがて永眠したオカンの話である。

本文に書かれていた
《そこに連れて行かれると、いつも尻に注射を打たれたが、泣かずに
我慢するとオカンと女医さんがふたりして褒めちぎるので、ボクは
痛くないふりをして、2人の喝采に酔いしれていた》に、わたしも
同じだったと、幼児期を思い出す。

本当は痛いのに、「注射が好き」と言えば、お医者さんも看護師さんも、
意外だという顔で、「へぇ〜、えらいねぇ!」と褒めてくれた。
そして得意気に、平気な風を装ってお尻を突き出すのである。

また
《あの時も泣きながら茶の間に行くと、オトンがステテコ姿でテレビを
観ていた。そこでどれくらい泣いたのかはわからないが、ある瞬間、
オトンがなにか怒鳴ったと思ったら、ボクは持ち上げられ、
投げ飛ばされていた》
という一節に、その昔がよみがえる。

今は亡き我が父は、外では常にニコニコして、まるで大黒さまの
ようだと言われていたが、実はとんでもなく短気で、当時は
高価だった電化製品など、買ったその日に壊すということも
ばしばだった。

あるとき、幼いわたしと姉がケンカをしていたら、コタツで
寝ていた父がムクッと起きて、姉とわたしを順番に抱き上げ、
わたしたちはそのまま畳に叩きつけられた。
もちろん手加減してのセッカンだったから、怪我はしなかったものの、
幼い姉妹はいつまでも泣き止まず、それがうるさいと、また父が手を
上げようとするのを、母と祖母が必死でその巨体を止めていた。

今となっては懐かしい思い出であり、本書はそんな家族の懐かしさと
切なさがこみ上げてくる一書。

東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン
(新潮文庫)

(2010/06/29)
リリー・フランキー
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

リトル・バイ・リトル 島本理生

リトル・バイ・リトル

高校を卒業したばかりの橘ふみは、母と、異父姉妹で
小学2年生のゆうちゃんの3人暮らし。
それに2年前にゆうちゃんが友だちからもらった、
育ち過ぎ気味のモルモットもいる。
大学受験勉強のさなかに母が2番目の父と離婚し、
経済的な理由から、受験は1年見送りとなった。

母は近所の整骨院でマッサージをしていたが、そこの院長が
夜逃げをし、突然無職になってしまったことから、ふみが
高田馬場にある英会話教室の宣伝用ティッシュ配りの
アルバイトをすることになった。
しばらくして、野崎治療院という新しい職場が決まった母は、
仕事や環境より院長が若くて優しそうだと喜んでいる。

治療院での仕事は忙しいながらも楽しいらしく、食事のときなど、
よくその日のできごとを嬉しそうに話すのである。
今日も、ふみちゃんが好きそうな男の子がキックボクシングで膝を
傷めて来院したから、今度写真を撮らせてもらおうかと言う。
そんなことを言い出す母を、しょうがない人だと思いつつ、
会ってみたいような気になっていた朝、寝違えたのか、
首の痛みのため、不自然な格好をしていると、母から治療院に来るように
言われ、バイトを早々に切り上げて、母のいる整骨院へ向かった。

診察室に入りベッドに横になると、その隣で施術していた母が、
うつ伏せになっている患者さんを指差す。
見ると、母のマッサージを受けていた男の子は、やはりふみの
好みの顔だった。
彼は、母が話していた男の子だったのである。

母を挟む形で会話が始まる。
プロになったばかりの市倉君は、キックボクシングの試合までに、
体の調子を整えるために通院しているとのことで、ふみは彼から、
その試合のチケットを買うことになった。

治療が終わって、2人は近所のカレー屋に入り、自己紹介してお互い
「周」「ふみ」と呼び合うことになり、ふみは内心舞い上がっていた。
ひとつ年下の周がカレー代を支払ってくれ、2人は携帯番号を交換した。

決して裕福ではなく、少し複雑な家庭環境で育ったふみは、
離婚した実父を「最初の父」と呼ぶクールな観察眼を持ちながら、
離婚後も毎年誕生日に会っていた父との思い出に、いまもなにかを
待っていることに戸惑う18歳。
眠れないときに本を棚から引っ張り出し、片付けないままベッドが本に
占領されたり、自分とは違う無邪気で楽しそうな、普通の高校生を
羨む心を密かに感じながら、周と出会い、ゆっくり流れる時間とともに、
少しずつ何かが変わっていく、静かで落ち着いた、
(当時)高校生作家の芥川賞候補作。
リトル・バイ・リトル (講談社文庫)リトル・バイ・リトル
(講談社文庫)

(2006/01/13)
島本 理生
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

1ポンドの悲しみ 石田衣良

1ポンドの悲しみ

『1ポンドの悲しみ』
大久保豊樹はホテルの部屋の前で、4週間ぶりの再会を延ばしたいような
奇妙な気持ちを抱いたまま、ドアをノックする。
そして先に部屋で待っていた真帆に言われるまま、目を閉じて
扉が開くのを待つ。

真帆は神戸三宮にオープンした、アメリカ生まれのファッションブランド
「プリンシプル」の店長を任されていた。

今日は私にさせて欲しいと、真帆は豊樹を室内に引き寄せ、スカーフで
目隠しをして、なにひとつ見落とさず、記憶にとどめていくように、
手と舌で豊樹の全身を確かめていく。
また会えなくなる4週間のあいだ、豊樹の身体を思い浮かべられるように。

甘く切なく熱い時間を共有してから、ホテル内にあるカリフォルニア
グリルレストランで夕食を摂り、そのあとのメインバーで、2人の夜を
楽しむために、真帆はノンアルコールカクテルを、豊樹はビールをのみ続けた。

部屋に戻って、今度は豊樹が真帆の全身を確かめてから、2人は裸のまま眠った。

翌日はデパートでウィンドウショッピングをし、紅茶専門店に入って
アフタヌーンティーセットを注文する。
残り僅かな時間を惜しむように、2人の手はテーブルの上でずっと握られたまま。
新幹線を待つ、別れの時間までのカウントダウン。

『ヴェニスの商人』……「心臓にいちばん近い肉を1ポンド」
胸をえぐられるような悲しみ。
2人は1ポンドの悲しみに押しつぶされそうになりながら、離れて暮らす
4週間の現実に戻っていく。
いっしょにいられる幸せと、背中合わせの別れの辛さ。
読む側の思い出がよみがえり、甘美な痛みを共鳴してしまう恋の物語。

『ふたりの名前』『誰かのウェディング』『十一月のつぼみ』
『声を探しに』『昔のボーイフレンド』『スローガール』『1ポンドの悲しみ』
『デートは本屋で』『秋の終わりの二週間』『スターティング・オーバー』
10編のショートストーリー。
『スローグッドバイ』に続く、30代女性の恋心が綴られた短編小説第二集。

あれはいつのことだったろう……
本屋さんに平積みされていた石田作品に添えられた、笑顔こぼれる彼のポスター。
どう見ても実年齢より20歳は若く見えるお顔に恋をしてしまった。
それから、新刊をあさる私の歴史が幕を開けた。

あっ、心を奪われたのは、お顔だけではありませんので、あしからず。

1ポンドの悲しみ (集英社文庫)1ポンドの悲しみ
(集英社文庫)

(2007/05)
石田 衣良
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

テムズのあぶく 武谷牧子

テムズのあぶく

日本の大学を卒業してから、23年間英国に滞在している百瀬聡美は、
ロンドン有数の高級住宅街であるハムステッド界隈を歩いていた。
芝居の演出をしている聡美が、脚本家に台詞の変更を
了承してもらう帰り道である。

突然、その並木道を横切る、毛むくじゃらの塊が目に入ったかと思ったら、
そいつを捕まえてほしいと、男が走りながら日本語で叫んでいた。
聡美はショルダーバッグで子犬の行く手を遮り、体を抱き上げて、
ひとめで日本人駐在員だと分かる、その男に掲げて見せた。

男は同僚の犬を預かったが、不慣れで逃げられてしまったのだと説明し、
聡美に礼を言って、聡美が子犬を抱きながら、2人は並木道を並んで歩いた。
高岡と名乗った男は、日本の電機会社の駐在として3年前にロンドンに
来たこと、子犬の名前はドロシーだということ、聡美はテムズ川沿いの
ドッグランドに住んでいることなど、自分たちのことを紹介しあい、
最後に高岡がカベンディシュスクエアにオフィスがあるので、
機会があったら寄ってくださいと言って、2人はそれぞれの
道に歩を進めていった。

それから聡美は、ドロシーのビー玉みたいな愛らしい目、
毛糸玉のような体の温もりが忘れられず、犬を飼ってみようかと
考えながらも、『ハムレットの役者たち』の芝居造りが終わりに
差し掛かる日々を送っていた。

そんな折り、大学の同窓会の招待状が届いた。
23年間の英国生活で、1度しか出席したことのない同窓会だったが、
チケットもさばかなければならず、公演の宣伝をすることを目的に
その同窓会に行こうと決意する。

日本料理屋のホールを貸し切った、立食パーティーの会場で、
ようやくスピーチの順番が来た聡美は、自己紹介からはじめ、
『ハムレットの役者たち』公演の内容紹介、会場などの説明とともに、
チケット割り引きを含めた宣伝を終え、テーブルに並んだ
料理を物色していると、後ろに人の気配を感じる。
「チケットをお願いします」という声に振り向くと、そこに
立っていたのは、あのときの子犬を預かっていた高岡だった。

あまりに予想外の出来事に、息を呑み狼狽する聡美だったが、
再会した2人は少しずつ距離が縮まり、そして付き合いが始まる。

異国の地英国で、会社という後ろ盾もなく、孤高に生きる女性が、
日本人男性と出逢い深く愛を確かめていく。
しかし、その先に待っていたのは……

流れゆくテムズのあぶくのように、最愛の人の心に寄り添って生きていく、
珠玉のラブストーリー。

テムズのあぶくテムズのあぶく
(2007/02)
武谷 牧子

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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

信州 の 桜月

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「長かった冬も去り、この学び舎にも」
「ようやく春の訪れが聞こえるようになりました」
「そうして、僕たち」
「私たちは……」

小学校卒業式の呼びかけである。
ん十数年経った今も、この季節になると、
ふと口をつくことがある。
そして脳裏に浮かぶのは、ひらひらとゆっくり
弧を描いて舞い落ちる桜の花びら。

数日前、信州にも「ようやく春の訪れ」桜の開花宣言が出された。
松本・安曇野界隈で、桜の名所はいくつかあるが、その中のひとつ、
弘法山古墳は山全体に桜の樹が植えられ、遠くからでもピンクの
山肌が鮮やかに映える、桜に覆われた小高い山である。

その昔、弘法山近くの川沿い道路が通勤路だったころは、
ハンドルを握りながら、移り行く桜色を楽しんだものであるが、
不思議なことに1度も登ったことがなかった。
「今年はお花見をしよう!」と思っているうちに、いつの間にか
散ってしまうという、例年の轍を踏まぬよう、開花宣言とともに
さっそく弘法山に向かった。

上り口は北東側と南東側、2つのルートがあり、北東側に
設置されている民話『泉小太郎』の像に手を合わせ、
急な斜面を踏みしめながら登る。
ソメイヨシノ、八重桜、枝垂れ桜などを目で鼻で肌で
感じながら進む。
10分ほど歩くと、突然開けた視界の遠くに聳える、
まだ雪深い北アルプス。
その真下を彩る、淡いピンク色に染められた桜の波。
何回シャッターを押しても、あの風景もこの風景も
記憶に留めたいと願う美しさ。
風が吹いては憂い、雨が降っては嘆く、儚い美。

花の命は短い。
きっと気がつけば、あっという間に弘法山もピンクから
緑色に変わってしまうだろう。
ただ幸いなことに、信州は南北に長いうえに、
盆地という地形上、標高差も大きい。
いたるところで、少しずつときをずらしながら、
桜が咲き出していく。
場所を変え、足を伸ばせば、1か月ぐらいは、お花見を
楽しむことができるところが信州の魅力である。

4月は毎週末、その色と香りを満喫する“桜月”にしよう!

テーマ : つぶやき
ジャンル : 日記

やってられない月曜日 柴田よしき

やってられない月曜日

高遠寧々はコネ入社の大手出版社経理部勤務で28歳。
できれば、定年までこの会社にしがみつこうと思っている。
身長166cmで、自分がブス、胸なし、剛毛髪だということを自覚し、
だからといって負け惜しみというわけではなく、男が欲しいとは
思っていないし、侮辱されれば、きっちり復讐もする。

週末には、Nゲージ用の1/150スケールの住宅模型を作って、
ネット販売している。

ずっと東京に住んでいたが、父親が定年になり、故郷の伊勢志摩で
ペンションを経営している叔父を手伝うため、両親が東京から三重に
移ってから、寧々は川崎のマンションで一人暮らしをすることになった。
家族と同居の生活は、生活費として一定額を親に渡せばよかったが、
自活する一人暮らしは経済状況が過酷になることは分かっていたので、
都内よりは家賃の安い川崎を選んだのだ。
けれど通勤ラッシュはかなり厳しいと、日々感じつつ会社に通っている。

社屋は大きな高層ビルなのにエレベーターは2基しかなく、“開かずの扉”
状態に腹を立て、期限切れの経費精算書を出す社員にイライラしながら
終業時間を迎えた寧々は、黒田翔子を呼び出した。

寧々の従姉である墨田翔子は美人で、一流総合音楽メーカーに勤務し、
自称“嫌われているカリスマお局(つぼね)” の38歳。
寧々は翔子にいろいろと相談し、その都度怒られてしまうのだが、
どこかそれが心地よい。

翔子に会社の愚痴をこぼしながらビールを飲んだ焼き鳥屋をあとにして、
満員電車に乗って駅に着くと、昼間、期限切れの経費精算書を
突き返してやった小林樹がいたのである。
しかも女性連れで!
相手は経理部の島係長。そう、経理部のエリートで寧々の上司だった。

2人に気づかれないようにその場を去ろうとした寧々だったが、見てしまった、
小林樹の手を振りほどき、涙を流しながら走り去る島係長と、
悲しそうに立ちすくむ小林樹を。
島係長は既婚者だったのである。

なぜか憂鬱になり、ぼんやりしながらマンションに着いた。
おかえりと言ってくれない一人の部屋。楽しいと思えない経理の仕事。
生活費を稼ぐために電卓を叩く毎日。仲間はずれにならないよう、
ランチや飲み会にも付き合って、死んだような会社生活と、
住宅模型を作ることで生き返る週末。

あの2人はたとえ不倫であっても、会社のなかでお互いの存在を
感じながら、ちゃんと生きている。
寧々は作業机に乗っている住宅模型を眺めて、自分はこの小さな世界で
生きて楽しんでいるんだ、会社でだって死んではいないと思いながら、
ジオラマの新しい世界を完成させた。
そしてリアルな高層ビルの会社の模型を、小さな世界のなかで、人が
動き出しそうなジオラマを造ろうと決意する。
会社での自分の生き方がきっと見えてくるはずだから。

寧々のやってられない月曜日が終わり、誰にもないしょの火曜日、
とびきりさびしい水曜日、甘くてしょっぱい木曜日、それでもうれしい
金曜日、命かけます、週末です、またまた、やってられない月曜日
〜エピローグと続いていく。

会社のなかにはびこるパワハラ・モラハラ・セクハラ・イジメ。
オヤジ化して、ブハーッとビールの泡を飛ばして、焼き鳥を
食いちぎり、ビール大ジョッキをお代わりする。
そんな場面に、過去の経験がよみがえり、ひとりうなづきながら、
思い出し涙や思い出し笑いが漏れそうになる、ワーキングガール・ストーリー。

やってられない月曜日 (新潮文庫)やってられない月曜日
(新潮文庫)

(2010/06/29)
柴田 よしき
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テーマ : アニメ・コミック
ジャンル : アニメ・コミック

THE SNOW QUEEN 雪の女王 〜七つのお話でできているおとぎ物語〜

THE SNOW QUEEN 雪の女王


第一のお話『鏡とそのかけらのこと』(日本語訳)

このお話は悪魔のような魔法使いのお話です。

ある日悪魔のような魔法使いが、見た目と正反対に写る鏡を作りましたが、
そのできがとても良かったので、ご機嫌になりました。
その鏡は、優しく慎ましい心を持った人の顔を、しかめっ面に写すのです。

悪魔の魔法使いが教えていた学校の魔生徒たちは、それを人間の真の姿を
写す鏡だと吹聴しながら、各地を歩き回ったので、その鏡は世界中に
知れ渡ることになりました。
図に乗った生徒たちは天使や神さまをたぶらかそうと、天高く
昇っていきましたが、鏡は震えだして地上に落ち、
粉々に砕けてしまいまったのです。

そのかけらが人の目に入ると、ゆがんだ見かたをするようになり、
心臓に入ると、冷たい心を持つようになってしまい、また大きなかけらを
窓ガラスに使ったり、メガネに使われたりして騒ぎが起こったのを、
悪魔たちはとてもおもしろがりました。

そして、かけらは世界中に散らばってしまったのです。
散らばったかけらは、いったいどんな騒動を起こすのでしょうか……
これから、この物語が始まります。

第一のお話『鏡とそのかけらのこと』(日本語訳)
FIRST STORY. 『Which Treats of a Mirror and of the Splinters 』
(英語原文)

第二のお話『男の子と女の子』(日本語訳)
SECOND STORY. 『A Little Boy and a Little Girl』(英語原文)

第三のお話『魔法の使える女の花ぞの』(日本語訳)
THIRD STORY. 『Of the Flower-Garden At the Old Woman's Who
Understood Witchcraft』(英語原文)

第四のお話『王子と王女』(日本語訳)
FOURTH STORY. 『The Prince and Princess 』(英語原文)

第五のお話『おいはぎのこむすめ』(日本語訳)
FIFTH STORY. 『The little Robber Maiden』(英語原文)

第六のお話『ラップランドの女とフィンランドの女』(日本語訳)
SIXTH STORY. 『The Lapland Woman and the Finland Woman』
(英語原文)

第七のお話『雪の女王のお城でのできごとと そののちのお話』
(日本語訳)
SEVENTH STORY. 『What Took Place in the Snow Queen. and
what Happened Afterward.』(英語原文)

デンマークの代表的な童話作家であり詩人であるハンス・クリスチャン・
アンデルセンの童話が、英語原文と日本語訳で構成され、
英訳・和訳の勉強までできる1書。

【日本語訳/英語原文 同時掲載】雪の女王/THE SNOW QUEEN ~七つのお話でできているおとぎ物語~雪の女王/THE SNOW QUEEN 
~七つのお話でできているおとぎ物語~

(2014/02/03)
ハンス・クリスティアン・アンデルセン
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

心躍る クローゼス 〜LLBeanにて

LLBean1.jpg

デパートの人口密度がいっきに膨れる、夏・冬バーゲンに初売り、
閉店売り尽くしなどの折りには、強迫観念に囚われたように、
お店に駆け込んだ。
ところが最近、まるで購買意欲が沸かない。
自分の持ち物が飽和状態という精神的充足感なのか、
あるいは美意識欠落なのか……

それでも年に数回、なにかに惹かれるように足を向けている
軽井沢アウトレット。
年が明けてから始めるようになったトレッキングウエアが、
リーズナブルに入手できたらと、カジュアルからスポーツウエアまで
揃っているLLBeanショップに入ってみる。

ターゲットは春用ウインドブレーカー。
第一候補とはあっという間に巡り会えたが、でも一応
ほかのお店も何店舗か渡り歩く。
結局、最初に「これ!」と思ったものがイチバンというのは、
不変の法則だなぁと感じつつ、LLビーンで見つけた
ブルーのウインドブレーカーに決定。

それを左手に抱え、レジに向かう途中、チラッと感じた
棚の上から放たれた光のオーラ。
脚が自然に方向転換し、オーラの中に手が伸びる。
大好きなニット。
お気に入りの色、ブルーグリーン。
綿混で鹿の子編みの襟付きカーディガン。
値段は半額以下!

購買意欲減退症はどこへやら。
気がつけば、ウインドブレーカーとともに、
綿混ニットも抱き抱えていた。

では会計をと、歩き始めた刹那、今度は
右側の棚からまたまた放つ光のオーラ。
そして気がつけば、左手にはショート丈のボレロ風
カーディガンが増えていた。

早くそれらに身を包まれたいと、気持ちは逸る。
帰宅し、袖を通してドレッサーに映しながら、
優しいフィット感にうっとり。

そしてフローリングに3枚を並べてみる。
そこには、自分自身の心の色が映し出されていた。
遠目には違いが分からないほどの同系色。
あっちゃ〜、これでは交互に着ても、毎日同じものを
着ているように思われるかもしれない⁈ と思いつつも、
だらしなくニヤけた顔の筋肉はたるんだままである。
女性はいくつになっても女性ですよねぇ〜!

テーマ : つぶやき
ジャンル : 日記

ファスティングダイエット 藤原 茜

ファスティングダイエット

半年間、生活に分子整合医学を取り入れてから、花粉症の症状が
改善され、身体が軽くなって、思考変化とともに心が豊かになったと
語る、スポーツトレーナーの著者。
ファスティングとは、分子整合医学をベースにプログラミングされた
もので、本書はそのノウハウのみにとどまらず、健康や食などにも
目を向け解説されている。

汚染された環境は老化を促し、疲れを取れにくくしている。
悪習慣は老化につながり、その老化に抗うアンチエイジングではなく、
自然な加齢であるナチュラルエイジングこそ健康に不可欠であり、
その鍵がファスティングなのです。

ダイエットは食事と運動の割合が重要で、生涯美味しく食べ続ける
ために、いっとき食べないことを実践するのがファスティングであり、
絶食ではなく断食であり、必要最低限のカロリーとミネラルや
アミノ酸を摂るものである。

成虫になる前や出産の前など、体内を活性化させるため、当たり前に
ファスティングが行われている自然界。
飽食ではなかった時代、人々は現代病もなく健康だった。

具体的には、人間の身体は、脂質より糖質の方が先にエネルギーに
変換されるので、1日約500kcalのエネルギーをドリンクで摂取し、
2~3日で糖質から脂肪へエネルギー変換させていく。
そうすることによって、デトックスや脳の覚醒という効果が
得られるのである。

ファスティングの効果は、デトックス(解毒)、ダイエット
(脂肪燃焼回路の確立)、リセット(代謝酵素の活性化と内臓の
休養)、リラックス(脳の活性化)、リバース(心身の再生と
生活習慣の改善)と多岐にわたる。

実践中は3食を抜くために1日が長く感じられるが、時間を
有効活用でき、リラックス感を得ることができる。
また、正しいドリンクを選ぶことによって空腹感に悩むこともない。
大切なことは、食べずに必要な栄養をドリンクでしっかり摂取すること。

著者は語る、毒だらけの世の中で、毒に負けず毒を出し、新しい毒を
入れないのがファスティングであると。

先日、テレビの情報番組で、腸を整える健康法を特集していた。
方法は、1日に1回8時間以上、食物を摂らない時間を持つことと、
腸に刺激を与えるため、5分間うつ伏せになり、ときどきゴロゴロと
身体を回転させるというものだった。

その整腸法を実践するとすれば、夕飯から朝食まで、8時間以上
あけるのが一般的だろう。
でも、わたしは朝食後から次の食事までの間、
絶食時間帯を設けることにした。
夕飯後から何も口にしないで8時間以上開けるのは、
たぶん不可能だと思われたからである。
というのも、わたしはベッドに入ると、2回呼吸すれば
絶命してしまうほど寝つきがよい。
けれど、その睡眠があまり持続しないため、2~3時間で
目が覚めてしまう。
そして困ったことに、「起きたら食べる」習慣が頑固に身に
付いているので、ひと晩に、睡眠・食・睡眠・食を繰り返すという、
かなり悪い生活習慣に蝕まれているのである。

後悔しながら迎える朝を断ち切るため、本書を参考に
ファスティングで体質改善にトライしようと決意!

究極のデトックス ファスティングダイエット スポーツトレーナーが伝授する、2週間でカラダが生まれ変わる断食術 (impress QuickBooks)ファスティングダイエット
(2013/02/08)
藤原 茜

商品詳細を見る


テーマ : 健康、美容、ダイエット
ジャンル : ヘルス・ダイエット

早春 の 軽井沢

早春の軽井沢

朝6時30分に出発。高速を飛ばし、8時過ぎに軽井沢プリンス
アウトレットイーストパーキング到着。

わずかここ数年のあいだに、何回軽井沢を訪れたのだろう?
今まではショッピングとグルメが中心だった。
今回の目的をランキングすれば、ウォーキング、グルメ、
ショッピングという順位になるだろうか。

ウインドブレーカーを羽織り、ミネラルウォーターや合羽などが
入ったザックを背負い、さぁ旧軽へGO!

20度を超えた先週末、突然やってきた春から、また突然帰ってきた
冬のような、痛いほどの冷気に負けないよう、大きく両腕を振りながら、
目的エリアへと進んでいく。

ちょうど県道から脇道に入ろうと歩を緩めていたとき、背後から
「こんにちは」と、親しみの込められた声。
振り向くと、望遠鏡を据えられた三脚をかついだ男性から
「どちらへ?」とにこやかに質問が重ねられる。
旧軽までウォーキングしているのだと伝え、逆にその方の
行き先を訊ねてみた。

雲場池でバードウオッチングするという返答に、「ラッキー!」と、
わたしたちは彼にお願いして、同行させていただくことになり、
旧軽の自然や住人事情などをうかがいながら歩いていく。

まだ花や葉が繁るには早いこの季節は、野鳥を見つけやすく、
その身体の色も1年中でいちばん綺麗に発色するという。
望遠鏡から覗かせていただくと、おっしゃる通り、水面をたゆたう
マガモの緑色は、例えようのないほど深く煌めいていた。

カルガモにマガモとコガモたちが、ゆったり群れをなし、緩やかな波に
身体を任せている様子に見惚れながら、足音を忍ばせて、雲場池の淵を歩き、
軽井沢銀座を周ってアウトレットに戻る。
所用時間は約2時間。歩行距離は10km超。

運動のあとは、心と身体に栄養補給。
薄切り豚肉を何層にも重ねて揚げた、ミルフィーユとんかつが自慢の
『キムカツぷれみあむ』で、以前果たすことのできなかった欲求を
制覇するためにドアをくぐる。
奥の席に案内され、心地よい疲れを椅子に委ねながら、窓に視線を移せば、
ピカピカに磨かれたガラスの向こうに映る真っ白なゲレンデ。

テーブルの上には、おひつに入った炊きたてご飯に千切りキャベツの山、
小鉢と壺漬けにお味噌汁、そして待望のミルフィーユカツと大エビフライ!
俵型に形作られたカツを頬張ると、サクッと歯ごたえのあるコロモを突き抜け、
口いっばいに満たされるジューシーな肉汁。
エビも同じくコロモから広がる新鮮な海の香り。
思わず「しあわせ〜!」と、言葉が漏れる。

春まだ早い、黎明な軽井沢の空気。
完全な美に、心奪われる自然の神秘。
心身に幸福を運んでくれるグルメ。

次回は初夏あたりがいいだろうか……
そして、目的はなんにしよう……

ウエハースの椅子 江國香織

ウエハースの椅子

もし何かに例えるなら、望まれた存在でありながら、
役に立たない、紅茶に添えられた角砂糖のような私。
あるいは、車のなかに独り取り残された、おとなしくて、
くたびれたような顔をした犬に似ている私は、成功していない
画家の母と、機嫌がいいときが少なく、高等遊民になりたい
雑誌記者の父、6歳年下の妹・ちびちびちゃん、それから
ラブラドール犬のジュリアンといっしょに、東京のはずれにある、
庭が広くて小さな家で暮らしていた。

そんな生活のなかで、身近に存在していた死。
13歳のジュリアンの老衰。
親しくお付き合いしていた、キリストみたいに痩せたY画伯の自殺。
父方の祖父母、母方の祖母の死。
父の交通事故死。
父の死によって始まった、母娘が別居した新しい暮らしのなかでの、
独り迎えた母の死。
それらの死は親しく、威厳があり、安らかなのである。

中年と呼ばれる年齢になった私は、古いマンションの4階で、
スカーフや傘のデザインをして生計を立てている。

ときどき忠実さが闇を形成している独身の妹が、お菓子や
CDなどを持ってやってくる。
骨董品屋と古本屋を営み、料理上手で優しい恋人は、
深い森の匂いと幸福を運んできてくれる。
満ち足りていて、幸せな恋人との時間。
恋人が帰っていくとき、私は後悔しないように、1人に戻る。

雑然としながら、どこより落ち着く気配を持ったアトリエで、
ときどき襲われる孤独。
1人になるとよみがえる幼いころ。
絵を描いたり、蝶々をとったり、雪空を見上げたり、
何も考えずにいられる時間。
脅威である小学生。

恋人がいないと老人のようになってしまう、静かで親しい絶望。
恋人の心の中にいる私。
死も孤独も絶望も哀しいことではないのだ。

きっと誰もが持ちながら、意識の外に置こうとしている悲哀を、
静かに見つめ、美しく精緻なタッチで描かれつつ、研ぎ澄まされた
表現に、内に秘める静謐と熱情が鬩ぎ合う。
隠された心のヴェールが溶かされていくような完成された物語。

ウエハースの椅子 (ハルキ文庫)ウエハースの椅子
(ハルキ文庫)

(2004/05)
江國 香織
商品詳細を見る

テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

春 と カラー と プレゼント


The Gift from My Old Friend

職場のカレンダーも色鮮やかなハナモモのピンク色に変わった。
暦は春。気分も春ンルン(古っ!)と、明るい気持ちで仕事も
終業時間を迎え、優しい春風を感じながら、帰り道にある
スーパーに寄って帰宅した。

買い物袋を左手に持ったまま、解錠し家に入る。
ドアの裏側に取り付けられた狭いポストには、窮屈そうに
主人の帰宅を待つ定形外の郵便物が覗いていた。
なんだろう?と思いつつ、右手で引っ張り出し、リビングに上がる。

見覚えのある宛名文字を見ただけで、すぐ差出人が分かった。
それは佐久にお嫁に来て、シティレディから同県人になった
学生時代の同級生。

開封すると、ブルーとラベンダーピンクがリバーシブルになる
ハンドメイドのブックカバーと、手帳などにはめるタイプの
ペンケースに、「Happy Birthday to you !」と
綴られた手紙が入っていた。

ブルーには至福の時間、ラベンダーピンクはインスピレーションアップ、
パープルは豊かな感性、シルバーは精神的リッチという
メッセージを込めて贈ってくれた、カラーセラピストの友人。
ブックカバー&ペンケースと手紙を交互に視線を移しながら、
こんなにも心のこもったプレゼントに、言葉を失ってしまった。

社会人になってから、彼女とはほとんど手紙のやりとりぐらいで、
頻繁に会ったりE-mailのやり取りをするようになったのは、
ここ1年ぐらいである。
彼女の誕生日は覚えていた。
でも学生時代の記憶なので、もし間違っていたら失礼だと、
昨年の彼女の誕生日は、1日中「おめでとうメール」を
送ろうかどうか逡巡し、結局送ることができなかった。
にもかかわらず、こんなに素敵なプレゼントを
いただいてしまい……

いつもそうなのである。
周りの人から思いやりと温かさをいただいては、
自分の人間性の薄さや配慮の欠如を痛感し猛省する。
今年の彼女の誕生日には、気に入ってもらえる贈り物を、
今から探してみよう!

テーマ : つぶやき
ジャンル : 日記

元気食 実践マニュアル155 魚柄 仁之助

元気食 実践マニュアル155


本書は、元気な生活、食費と時間の節約、食生活改善を
心がけている人に役立つ、楽に作って楽しく食べる「楽膳」が
元気のもとと、著者が語る、食に関する実践マニュアル書である。

第一章 ごはん技では
〈1〉米を炊くツボ
欧米型食生活が成人病の増加原因だということが
広く知られるようになった今日、お米が主食の
日本食が見直されている。
お米は無添加で、粉食と違い、粒食は糖尿病の予防にも
効果があり、米飯朝食は脳の働きも活発にしてくれる。
稗・粟・麦・黍などを混ぜるだけ、手間をかけずに
栄養が摂れる雑穀米。
など、こまかく27技に分かれて説明され、続く第二章 野菜技
23技、第三章 魚技 20技、第四章 乾物技 39技、第五章 備蓄技 15技、
第六章 減塩・減糖・減油技 18技、第七章 料理の段取り技 13技の
7章で構成されている。

「手間いらずなのに栄養価が上がる、めし、あがれ作戦」や
「黍(きび)の項 知り合いの望月くんは、ちっともきびきびしていません」
だとか「元気食の下心、いや、下準備」など、ジョークと方言をまじえ、
気取らない口調で語られる食生活。
著者自身の経験をもとに、健康食や簡単食などのよりよい作り方や、効能、
保存方法、著者曰くインチキ調理法=簡単調理法、調理器具の
一石二鳥多機能な使い方、病気に効果のあるレシピ、素材の特徴や生かし方、
青もの野菜の冷凍保存方法、光熱費節約調理法、魚のフライパン網焼きなどが
ていねいに記されている、一家に一冊のお役立ち本。

元気食 実践マニュアル155 (文春文庫PLUS)元気食 実践マニュアル155
(文春文庫PLUS)

(2012/09/20)
魚柄 仁之助
商品詳細を見る


テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

雛の鮨 和田はつ子

雛の鮨

28歳で容姿端麗な季蔵(としぞう)は、侍から転身して、
料理屋“塩梅屋”(あんばいや)で働いている。
塩梅屋の店主で、季蔵の師である長次郎は、日本酒に梅干しを
煮詰めて作る煎り酒が、調味料としては最高だと言って、
煎り酒を使うのが常であった。
そんな長次郎に倣い、季蔵も煎り酒の試作を繰り返している。

塩梅屋の2階には、長次郎と1人娘のおき玖が住み、
客をもてなす離れもあった。
1階の一膳飯屋は、すべてを季蔵が取り仕切っている。

煎り酒作りに熱中して朝を迎えた季蔵のもとへ、船頭の豪助が
あさりを売りにやってきて、昨日、出会い茶屋“鈴虫”から、
若い女と連れだった長次郎を見たと言う。
季蔵はそのことを、おき玖ちゃんに知られたらと案じる気持ちに、
誰でも心に重みを抱えているが、とにかく食べて寝て働くことが
大切だという長次郎の言葉が浮かぶ。

あれこれ考えることは無意味だと、身体を動かし続けていると、
愛らしい美貌を持つおき玖が不安そうな顔をして、戸口で立っていた。
長次郎が離れに行ったきり戻ってこないという。
離れには長次郎以外入室は許されていないので、
確かめることもできない。

そこへ豪助が走ってきて、長次郎が大川端に浮かんだと、
息を切らしながら訴えたのである。
大川端に着いたときには、すでに長次郎の亡骸はなく、
急いで、3人は番屋へ向かった。
長次郎の骸には、首の後ろに刺された傷痕があっにもかかわらず、
自殺だから詮議はしないと言い張る同心の田端に、おき玖は、
必ず下手人を探し出します。父は江戸日本橋じゃ、
ちっとは聞こえた料理人なんです、と啖呵を切った。

長次郎を猪牙舟に乗せ、川を漕ぎ出し、おき玖は泣き崩れ、
季蔵と豪助は声を殺して泣いていた。
棺には鎌や鉈の代わりに出刃包丁を入れ、塩梅屋の戸口には、
忌中という意味である魚鳥止めと書かれた紙が貼られた。
たくさんの弔問客が思い出話をし、言葉を詰まらせていた。

おき玖を2階で休ませたあと、上質の黒門付き姿の侍が、
長次郎の好物である下り酒を提げて訪ねてきた。
3人は供養に下り酒を酌み交わす。
帰り際、侍の言葉に愕然とする季蔵。
その侍・北町奉行烏谷椋十朗の口から明らかにされる
長次郎の秘密とは……

第一話 雛の鮨 第二話 七夕麝香(じゃこう) 第三話 長次郎柿
第四話 風流雪見鍋の全4編。
元侍の、作り手の心がいい塩梅の煎り酒になり、お茶の淹れ方も
塩梅しだい、すべて塩梅が大事だという料理屋“塩梅屋”の
料理人季蔵がさまざまな事件に立ち向かう捕物帖シリーズ。

雛の鮨―料理人季蔵捕物控 (時代小説文庫)雛の鮨―料理人季蔵捕物控
(時代小説文庫)

(2007/06)
和田 はつ子
商品詳細を見る

テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

幻想的な 秘境 黒沢の滝

黒沢の滝

信州の3月は、まだまだ名ばかりの春。
にもかかわらず、その日はポカポカ皐月を思わせる陽気。
外気温は20度超。
ゆっくり歩いても汗ばむような陽射しのなか、梓川ふるさと公園に車をとめ、
安曇野市に位置する黒沢の滝に向かう。

ときどき軽快に走っていく車が行き交う県道をテクテク進み、林道に入る。
等間隔に植えられた杉の木に囲まれた道は、それまで歩いてきた県道とは
空気が変わる。
ひんやり心地よい、濃厚な酸素に包まれ、上り坂を一歩いっぼ
踏みしめながら上がっていく。

ちょうど浄水場にさしかかった辺りで、前方を素早くうごめく数匹の生き物⁈
「なに?」と、目を凝らせば、林道を追いつ抜かれつしながら走る、
10匹ほどの猿の集団!
映像におさめたいと思いながらも、ただ呆然と眺めているうちに、
彼らは杉林の奥深くに消えてしまった。

再会を期待しつつ、前進を再開。
すると、目の片隅に入り込んできた春色の芽。
足を止め、かがんで手を伸ばす。
苦味のある懐かしい香り。
そう、ふきのとうだった。
できるだけ花が開いていないものを選んで摘みながらのトレッキングとなる。

黒沢不動明王を過ぎ、黒沢砂防ダムが見えてくると、
足元には硬く留まった雪道出現。
滑らないよう、ストックに助けられながら、ようやく黒沢の滝到着!
雪との共演。勢いよく落ちてくる水の煌めきに、思わずため息が漏れる。
柔らかい風に乗って届く微かなしぶきは、マイナスイオンのオーロラ。
しばし幻想的な光景と、滝の音に包まれながら立ちすくむ。

トレッキングとは、「頂上を目指さない登山」らしい。
肩肘張らない、そんな気軽さに共感して始めた山歩き。
言葉では言い表せない景色、直に見ることの稀有な動物、
そして思わぬ副産物である春の味覚との遭遇。
次回はタラの芽に期待を込めながら、今日の夕餉はふき味噌に冷酒……かな!

テーマ : つぶやき
ジャンル : 日記

ワーキングガール・ウォーズ 柴田よしき

ワーキングガール・ウォーズ

『ピンクネイル・ジャーニー』
墨田翔子。
入社14年10か月、独りランチが当たり前の独身女性。
都心に1LDKのマンションを持っているため、NHKの連ドラを
観てから出社できるし、年収も悪くないという恵まれた?状況である37歳。
着飾ることには興味がなく、社内では嫌われ者であることを自覚し、
部署の歴史が長いので便利だけど、うざったいと思われていることも知っている。
孤立しながらも、年収と年金と退職金のために会社に在職している。

そんな日々を過ごしていたある日、デパート主催の
メーリングリストに登録した。
ハンドルはフェザーB。
昼間ふらっと入った旅行社でパンフレットをもらってきたせいなのか、
読むだけの参加者だったフェザーBが、なぜか発信してしまったのである。
オーストラリアの田舎町ケアンズ。
その町の情報を教えて欲しいと。

翌日、何通か届いたメールの中に、目を瞠る1通が。
ケアンズで、日本の旅行社の現地支店に勤めている
女性からのメールだった。

社内にはびこる妬み、嫉み、恨みなどの悪意。
そんな状況に嫌気がさし、ケアンズの風景が膨れ上がっていく。
そしてあの1通のメールの差し出し人、嵯峨野愛美との交流が始まる。

『ペリカンズ・バトル』『リバーサイド・ムーン』
『ホリデー・イン・ディセンバー』『ブラディマリーズ・ナイト』
『バイバイ、ロストキャメル』『ワーキングガール・ウォーズ』
『エピローグ』へ続いていく。

会社という小さな世界での、お局に小局の存在。
お弁当を作らない上司の妻への、声には出さない悪態。
ローンをかかえ、お小遣いをやりくりするサラリーマン。
男と上司の前では素直、仕事もできないのに悪知恵だけは働く後輩。
そんな、ありがちな会社という狭い社会。

仕事に対する悩みや迷い。戸惑う人間関係。
逃げたくても逃げられない現実。
鈍感であると自分に言い聞かせることで、なんとかやり過ごす日常。
女性がいかに生きて行くかが、リアルに繊細な視点で描かれた、
働く女性のためのバイブル小説。

ワーキングガール・ウォーズ (新潮文庫)ワーキングガール・ウォーズ
(新潮文庫)

(2007/03/28)
柴田 よしき
商品詳細を見る


テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

MISSING 本多孝好

MISSING.jpg

『眠りの海』
気がつくと、冬の浜辺で寝かされていた。
傍で少年が火に小枝をくべている。

少年に自殺の理由を訊かれると、なぜ話す気になったのか、
炎を見ながら話し始めていた。
20年前、小さな旅館を経営していた両親とともに、この土地で
暮らしていたが、両親は乗っていた車の前に飛び出してきた少年を
避けようと海に転落して他界し、私は東京の伯母の家にひきとられた。

伯母夫婦と実子2人がいる家で、疎外感は拭えず、私は決して本心を
見せない、人当たりのいい子どもを通した。
疎外感を胸に秘めたまま、恋愛もうまくいかず、感情の防波堤として、
伊達眼鏡をかけるようになった。
進学率の高い公立高校の教師になったが、家と学校を行き来するだけの
生活を送っていたとき、佐倉京子と出会ったのである。

放課後、突然ガラスの割れる音がしたので、その教室に入ってみると、
ストレートの髪をした少女がポニーテールの少女を睨みつけていた。
喧嘩をしているらしい2人のもとへ行き、今日は帰れとストレートの
生徒・佐倉京子の背中を押した。
その顔が誰かに似ていると思いながら、彼女の背中を見送った。

喧嘩の理由は、佐倉京子がまだ払っていなかった修学旅行の費用を
ポニーテールが勝手に立て替え、佐倉京子の自尊心を傷つけた
ということのようである。

佐倉京子の住む木造アパートを訪ね、忘れ物のカバンを渡し、
ポニーテールが謝っていたことを告げたが、その後どうなったのか、
私は知らない。

それから夏休みも近づいたある日の午前2時、中町署の少年課から
電話がかかってきた。
佐倉京子が夜中に盛り場を歩いていたのを補導したという。
なぜ佐倉京子が私の名前を言ったのか、なぜ自分が佐倉京子を
迎えに行くのか分からないまま、警察署へ向かった。

家まで送ると言うと、先生の家に行きたいと佐倉京子は答える。
佐倉京子は私生児で、父親は伯母の夫、つまり義理の伯父であり、
その伯父から金をせびるために生まれた。
そして母がアル中になったと打ち明ける。
彼女が誰かに似ていると感じた誰かは、自分だった。
私の幼い頃の表情とよく似ていた。

夜が明けて、佐倉京子は帰っていったが、その後彼女は
この部屋でいっしょに過ごすようになった。
2年後、2人の関係が学校にばれ、別離かクビと退学かの
選択を迫られた私たちは、高速に乗り海に向かった。
そして突然京子が私に抱きついてきたのである。
時速100キロ、視界を遮られブレーキを踏んだが……

老成した瞳を持ち、私の話を聞きながら諭すように言葉を
発する少年は……

愛は錯覚なのだろうか。
愛している、愛されていると信じつつ、真実が違うことに、
どこかで気づいている喪失感。

MISSINGが意味するものは?
『眠りの海』『祈灯』『蟬の証』『瑠璃』『彼の棲む場所』の
5編が収録されたミステリー短編集。

MISSING (双葉文庫)MISSING
(双葉文庫)

(2001/11)
本多 孝好
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

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Hollyzard

Author:Hollyzard
本が恋人です。
料理は大嫌いですが、でも実は天才なんです(笑)。
外でおいしいお料理に出会うと、勝手にアレンジしてマイレシピにしてしまいます。