11月の投稿書籍


怪談うしろ猫1万語英語多読「脳」の話嫉 妬明 暗薄暗い花
レインツリーの国注文の多い料理店穏やかな死に医療毒 婦桜 舞 う向日葵の咲かない


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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

納豆腐 NatTofu

ナットーフ


作り方は画像をクリックしYouTubeにて

テーマ : レシピ
ジャンル : グルメ

向日葵の咲かない夏 道尾秀介

向日葵の咲かない夏

油蝉の鳴き声、僕はその音が苦手だ。
小学校4年生の夏、あの事件が起きた。
その1年後に妹は死んでしまった。
僕は4歳だった。

7月20日終業式の日。
窓硝子の外から聞こえてくる、化け物の叫び声のような音。
怖さを紛らわそうと、シャーペンで机に絵を描こうとするが、
手が震えてうまくいかない。
どん、と音がして、窓に顔を向けると、
S君が窓の外を横切っていた。

「今日はSが休みなので、プリントと宿題を届けてくれないか」
担任の岩村先生に頼まれる。
そう、S君は学校に来ていなかった。

ここN町では犬や猫のおかしな死体が立て続けに見つかっていた。

僕は届け物を持って、S君の家に向かっていると、塗装が剥げ硝子が
割れている車が停まっていたので、後部座席を覗いてみた。
するとそこに猫が死んでいたのである。
死体は仰向けで、後ろ足の関節が不自然に曲がっていた。
そして口からは白い石鹸が!
僕は叫びながら、走り出す。
竹藪、砂利道を一気に駆け抜け、S君の家の門に辿り着き、
その場に屈み込んだ。

そして家を見上げ、呼び鈴を押したがチャイムは鳴らない。
そのときS君の飼っている犬のダイキチが唸り声を発したのだ。
そんなことは初めてだから、僕は驚いた。
狂ったように吠え続けるダイキチを避けながら、ドアを細くあけ、
「S君いますか」と、声をかける。
返事はない。
庭へ回ってみる。
油蝉の鳴き声に混じり、かすかに、きいきいという
音が聞こえていた。
向日葵がたくさん咲いている庭に面した窓の前に立ち、部屋の中に眼をやる。

S君がいた。
僕をじっと見ながら、教室で見かけた格好と同じTシャツと半ズボン姿で、
全身を揺らしている。
「何してるの?」

S君は何も言わず、両足がぶらぶらしている。

僕は地面にひざまづいた。
たくさんの向日葵を見ながら、S君は僕ではなく、向日葵を
見ていたのかもしれないと思ったら、涙が出てきた。

なんとか学校に戻り、岩村先生にS君の家の様子を説明すると、
岩村先生は驚いた様子を見せながら、低い声で警察に電話し
職員室を出ていった。

僕は若い冨沢先生に送ってもらい帰宅し、留守番していた3歳のミカに、
自分の見た出来事を話して聞かせた。

やがて岩村先生が刑事を連れ添いやってきて「なかったんだよ」と言う。

S君の家には、死体もロープもなかったと言うのだ。

なぜ死体が消えたのか、僕とミカはトコお婆さんに相談することにした。
トコお婆さんは “あの力” を使って呪文を繰り返し、ひとこと呟いた。
「臭いがーー」

その夜、死んだらどうなるのか、お父さんに訊いてみると
「人は死ぬと魂が抜け出て、この世とあの世のあいだで迷うんだ。
その期間のことを中有って呼ぶらしい。
中有にいる魂は7日ごとに生まれ変わるんだよ」
と教えてくれた。

1週間後、僕の前に姿を変えたS君が現れて、その変わってしまった姿で喋る。
「あいつは僕を殺して、死体を持ち去ったんだな」
そして小学校4年生の僕と3歳のミカが真相を追いはじめる。

咲かない向日葵、油蝉、トカゲ、カメ、カマキリなどに秘められた意味とは?
このミス1位の著者が独特な世界観と巧妙な描写で描く稀有な叙述トリックミステリー。


向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)向日葵の咲かない夏
(新潮文庫)

(2008/07/29)
道尾 秀介
商品詳細を見る


テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

カラサワくんと豚しゃぶポン酢と我が家の夕餉

 豚しゃぶ3


ある○○食品会社のポン酢のコマーシャルが好きでたまらない。
カラサワくんの “地” そのもののストーリーはもちろん、ときどき斬新な
ポン酢のレシピに、すぐに飛びついてしまうくらい、お腹の虫が騒ぐのである。

今日も朝観たカラサワくんと、「え〜?そう来たか!」
という鍋料理に驚嘆し、夕ご飯の献立は即決。

仕事中もソワソワ、帰りはスーパーに寄って、豚しゃぶ用のお肉とキャベツを
買って……ポン酢はあったかなぁ?ほかにキノコ類やネギを入れれば、
味にコクが出るかも……などと、やや仕事がふらつき気味。

何はともあれ終業時間となり、いつものスーパーに寄る。
地場産コーナーで見つけた、生産者名入りのしっかりと巻かれたキャベツと
しゃぶしゃぶ用豚肉をカゴに入れ、ふと目に留まったのが “豆苗”
外袋の説明書きには、お味噌汁や鍋に最適と書かれている。
即、豆苗もカゴに追加し、レジを済ませ、家路を急ぐ。

水炊き風にしてしまうと水分が気になるので、今日はセイロ蒸しならぬ
“アルミ鍋蒸し” に挑戦。

キャベツの千切り・もやし・松本一本ねぎ・ブラウンえのき・人参・豆苗と
豚肉を蒸し器に入れ、火にかける。

10分後完成。
見た目はイマイチだけれど、蒸し器ごとテーブルに並べ、豚肉に野菜を
包みポン酢で一口。
「う、うまっ!」
やっぱりなんといっても、ポン酢と豚肉の相性は抜群!
それに胃腸に薬効のあるキャベツ・生命の息吹を感じる若々しいもやし・
薬味効果たっぷりのねぎ・カロチンの代名詞である人参・癌に効果があると
いわれるえのき・色鮮やかでビタミン豊富の豆苗が加われば、豚に金棒?
冬の醍醐味!

あとは日本酒かな……てへ!

テーマ : いいもの見つけた
ジャンル : 日記

桜舞う おいち不思議がたり あさのあつこ

桜舞うのコピー

鼻緒が切れ、おいちは地面に膝をつく。
血が流れ落ちてきた。
そこに弁慶縞と金通縞の着流し姿の下卑た男2人に道を塞がれる。
おいちは鼻緒の切れた下駄を投げつけて、すりぬけ裸足で走る。
逃れるためではなく、辿り着くために。

17歳のおいちは町医者の子で母はなく、小さいころから
父・松庵の仕事を手伝っていた。
医者にもかかれないような貧しい人々が患者であるから、おいちたちの
生活も苦しかったが、人は強靭であり、しぶとくしたたか、
生きることに貪欲で、死の前に身分も財力も人柄も役に
立たないことを感じる日々の暮らしが、興味深く楽しいと思っている。

おいちには深川六間堀町の呉服問屋『小峰屋』のひとり娘おふねと、
経師屋の娘お松という友人がいた。

松庵もおいちも次々に運び込まれる患者の対応に追われていたが、
ようやくそんな忙しさが一段落したある日、『小峰屋』の小女が
慌ただしく飛び込んできて
「おじょうさまがお倒れになって……」
と泣きながら叫ぶ。
尋常でない何かがおふねの身に起きたことを察し、
おいちはそのまま全力でかける。
ただひたすら走る。
おふねのもとに辿り着くために。

『小峰屋』に着くと、お松も荒い息をしていた。
裏口にまわり軽い目眩を感じたおいちの眼裏に浮かび上がった
おふねの白い顔。
「苦しい、助けて。早く……」
と、とめどなく涙を流していた。

おふねを診ていたのは肩幅のある堂々たる体躯の男だった。
目覚めたおふねは、おいちとお松に
「よかった、最期に2人に会いたかった。
……赤ちゃん死んじゃった」
と言い残し、息を引き取った。

悲しみに打ちひしがれながら『小峰屋』をあとにし、お松が言う。
「ちくしょう。仇をとってやる。おふねちゃん、手ごめにされたんだ」

そこへさっき絡んできた下卑た男たちが現れ、じりじりと寄ってくる。
心身は硬直し、今にも崩れそうになったとき、救ってくれたのが
『小峰屋』で医者の後ろに控えていた助手の田澄十斗だった。
2人が十斗にお礼を言うと、十斗はおいちの父の名「愛野松庵」と呟く。
それは十斗が探し求めていた人物だった。

頭の隅が鈍く疼き始めた。
あたしを呼んでいるのはだあれ?
「おふねちゃん!」
「おいちちゃん、助けて、あたし……」

おいちは伝えたい思いを残したまま死なねばならなかった死者の夢を見、
声を聞くことのできる娘だった。

江戸の菖蒲長屋を舞台に、不思議な能力を持つおいちが活躍する青春時代ミステリー。

桜舞う桜舞う
(2012/03/14)
あさの あつこ
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

花林糖と黒糖カレーと懐古の誓い


蔵久6

晩秋の雨は周りの世界を薄暗いベールに包み、足元を照らすガーデンライトが
妖艶な空気を生み出す。
その灯りに沿って進んでいくと、悠然と佇む漆黒に輝く古民家風の家屋。

幼いころ、茶の間の菓子器にはいつも花林糖が乗せられていたような気がする。

信州にある花林糖製菓の老舗。
久しぶりに安曇野の工房に足を向けてみた。
広々とした敷地に広がる、落ち着いた風情を奏でる庭園。
和の贅を尽くした和座敷。
開放感あふれ、季節の風を楽しめる外カフェ。

和座敷では和紙の灯りに照らされた欄間や衝立てを愛でながら、
田舎蕎麦や安曇漬けに花林糖などをいただくことができ、外カフェでは
古代米を炊き込んだ黒糖カレーやベーグルとともに、安曇野のゆったり
流れる時間を感じることができる。

あいにくその日は朝から冷たい雨が続いていたので、外カフェに面して
設えられたギャラリーカフェに入る。
落ち着いた色の壁に、温かみのあるオレンジ色の電灯が優しく辺りを包む。
和陶器に注がれたコーヒーと、ガラス窓からのぞめる庭園。
甘く懐かしい花林糖の香り。
時空を超えて、思い出のワンシーンに収まったような不思議な感覚を覚える。

ひととき浮遊しているような気分に浸りながら、揚げたての花林糖が
目に入るなり、突然現世に引き戻される。
そろそろお歳暮の季節。
今年は懐かしさを込めて花林糖を贈るのもいいかもしれない。
うわっ、いつの間にか懐古の世界から現実に戻ってしまったことに
改めて気づき、がっくりうなだれる。

喧騒の現実がほとんどを占める日常の、ほんのわずかな瞬間、
ロマンや空想のなかに浸りに、またこの工房にふわふわ浮遊しに来よう!
と自分に誓いつつ、懐かしい味・花林糖を買って、工房をあとにする。

帰路につきながら、ふと花林糖を隠し味にしてカレーを作ってみたら、
新しいカレーの味が生まれるかもかもと、奇をてらったイメージが膨らむ。
早くその未知の味に遭遇してみたくなって、アクセルを強く踏み込む。

テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

毒婦 北原みのり

毒婦

この事件に興味を持ったのは、木嶋佳苗という女が、
全く分からなかったから。
共感や同情を一切持てなかった。
佳苗にとって、男とは何だったなのだろう。

本書は、2012年1月10日に始まった、3件の殺人事件を軸にした、
木嶋佳苗裁判の傍聴記録である。

報道されてきた佳苗のイメージは、だらしなく不潔で醜い。
しかし実際に数メートルの距離で見る佳苗は、胸元を強調した
服装に、絹のような美肌と小柄で上品な声を持つ、魅力的な女性だった。
検事が語る事件の内容より、佳苗に釘付けになるほどに。

婚活サイトで出会った佳苗と大出さんは数回メールを往復し、2日後に
JR神田駅近くで会い、8日後にセックスをし、翌日佳苗は470万円を
受け取った。
佳苗と出会って23日後に大出さんはこの世を去るが、その間怒涛のように
熱いメールが送られていた。
その内容は金銭援助が結婚の条件であること、セックスは大切なことなどと、
上品にさらりと触れられていた。

第3回公判、数人の証人によって明かされていく事実。
2009年7月23日、大出さんは佳苗の自宅にて一夜をともにし、
佳苗に完全没落していた。

亡くなった当日、佳苗の妹夫婦に会い、その後2泊3日の婚前旅行に
出かける予定だったが、大出さんは妹夫婦とは会わずに、埼玉県の
駐車場に置かれたレンタカーのなかで亡くなった。
笑みを浮かべたまま殺害されたと主張する遺族。
3人の殺人を審理する裁判なのに、悲劇や緊張が感じられない
不思議な公判だった。

終始無表情だった佳苗が、大出さんの兄の証言のなかで
「北国の人の発想」という言葉に豹変。
田舎者扱いされたことに強く反応したのである。

1月16日第4回公判。
佳苗の本命と目される男性・S氏が証言台に。
玉置浩二似の細身、セクシーなつかこうへいと表現されるほど、
面長で鼻筋が通っていた。
はじめはセックスフレンドだったが、その後結婚を意識した
真剣な付き合いをしていた。
S氏には婚活サイトで出会った男性とは違う甘えたメールを送りつつ、
偽名・吉川桜と名乗って、桁はすれのお嬢さまを演じていた。
愚痴には励まし、経済的負担をかけず、本命と目されるS氏だったが、
佳苗に結婚の意志はなかったという。
では、佳苗にとってS氏の存在はなんだったのだろうか。

S氏の証言は午前中に終了し、午後は50代男性B氏が証言台に立った。
B氏とはメールと電話のやりとりだけだったが、佳苗は大出さんと
同じような内容を伝え、金銭援助として130万円を要求していた。
100万円以内なら援助するつもりでいたB氏だったが、結婚詐欺の
懸念も頭をよぎり、結局未遂に終わる。
その後、佳苗からの連絡はなく、B氏はお金を払わなかったことを
後悔したと言っている。

休廷中、佳苗は華やかな笑顔で弁護士とよく談笑している。
午後には必ず佳苗のくちびるがテカりだす。
それはまるで、悲劇なのにちぐはぐで滑稽な、佳苗の不可解さ
そのもののように思えた。

2009年夏、佳苗は6人の男性と出会い、得た金額は約900万円。
2008年6月に出会い、翌年2月4日に一酸化炭素中毒で亡くなるまでに、
寺田隆夫さんが振り込んだ金額は1,800万円超。

長野県在住49歳のM氏は、2008年8月24日に佳苗からメールが届き、
12月までに合計130万円を振り込んだ。

静岡県在住47歳のK氏は、2008年8月24日から12月までに
約190万円を振り込んだ。

千葉県の自宅の家事で亡くなった安藤建三さん(当時80歳)は、
2008年6月ごろに婚活サイトで出会って約1年つきあい、安藤さんが
亡くなった5月15日、佳苗は彼の口座から残額188万円を引き出した。

「平成の毒婦」「蜘蛛女」「死を招く女」など、扇情的に描かれた佳苗。

学費援助とともに手料理と性的関係をあからさまに匂わせ、婚活サイト
以外でもさまざまな出会い系サイトで男たちと出会い、次々と男から
金を引き出し、高級マンションに引っ越し、高級料理学校に入学し、
ベンツを購入など、行状が明らかになるなか、午前と午後で服装を変えたり、
ヒールサンダルに履き替えたりと、法廷で次々と伝説を作る佳苗。

ふてぶてしいと言われがちだが、他人からの同情を拒否しているようにも見える。

真っ暗な洞のように、光を持たない目。

介護も料理もピアノもプロ級であることをアピールし、支援という
対等感と強引さで、金銭を得てきた佳苗の生い立ちは……

広く豊かな自然の中で閉塞感が募る北海道別海町での少女時代。

近代的な父を敬愛するが、母との確執のため、高校時代は一人家を
出て祖母と暮らし、高校卒業後に上京。

援助交際・ブルセラ・テレクラ・バブル崩壊という社会情勢。

男は純情の名の下にお金を出し、愛を求め、手料理を求め、セックスを求める。
もしこれが男女逆だったら、女と男の非対称性。
欲望の純度とはなにか、佳苗が求めていたものは?

弁護士・検事・裁判官、法廷の真ん中にいる男性のみの異様な空気。

この世界に潜む男性社会の闇。

殺人だけではなく、愛を問われているような裁判。
浮き彫りにされる脆弱な裁判員制度。

佳苗のドライさと合理性、不思議な説得力。

ちりばめられた嘘のなか、手に取るように鮮やかな実感。
絶対に潤うことのない欲望を追い求め、佳苗は冷静で滑稽で、
最後まで佳苗だった。佳苗らしい佳苗だった。

女が犯した女の事件。
毒婦と呼ばれた佳苗とは……
あらゆる角度に視点をあて取材を重ねた、裁判傍聴レポート。

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記
(2012/04/27)
北原 みのり
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

穏やかな死に医療はいらない 萬田緑平

穏やかな死に医療はいらないのコピー

「治療を諦めるのではなく、自分らしく生きる」
治療を続ければ、生き続けられると思い込んでいる今の日本の現状。
しかし治療をやめることで自分らしく生き、死を迎えられるのである。

延命治療とは、本人の意思を確認できずに、亡くなるまで、
チューブだらけにすることである。

人工呼吸、気管内挿管、気管切開、昇圧剤(強心剤)などの
フルコースの延命治療は、苦痛と危篤時間を長引かせるだけ。

病気を治すことではなく、最後まで生き抜くことで、
患者さんやそのご家族に満足してもらいたい。
そして終末期を迎えた患者さんを自宅で看取ってくれる開業医との
ネットワーク作りや緩和ケアの在り方を学んでいるうちに、
いろいろな出会いがあり、知り合った方が「緩和ケア診療所・いっぽ」の
院長である小笠原一夫先生だった。

医師と看護師がチームを組み、最期を自分らしく迎えたいという
患者さんとご家族を支える「いっぽ」のスタンスに、感動し、
外科医から在宅緩和ケア医へ転身を決意。

ある患者さんの死に臨み、
「ベッドサイドに通うこと。
『死』という言葉を患者さんに伝えること。
患者さんの涙から逃げないこと。
涙を乗り越えた患者さんは幸せな死を迎える強さを持てること」
などを教えてもらったと語る著者。
死は悲しく辛いだけではなく、精いっぱい生きる患者さんや、
そばで支えるご家族の姿に感動を与えてもらえる。
だから、生まれたときの「おめでとう」と同じように、
最期のときにも「おめでとう」と言いたい。

生も死も、ひとりの人間としての尊厳を重視したい。

本書は素晴らしい人生の最終章を迎えるために、長年大学病院で
外科医として活躍し、在宅緩和ケア医に転身した著者が終末期や
穏やかな死、生きるということを説いた1冊。

穏やかな死に医療はいらない穏やかな死に医療はいらない
(2013/04/01)
萬田 緑平
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

注文の多い料理店 宮沢賢治

注文の多い料理店

「ここらの山は怪しいね。鳥も獣も1疋も居ない。
早くタンタアーンと、やりたいもんだ」

2人の若い紳士が、白熊のような犬を2疋つれて狩猟に来たが、
獲物がまるで見つからない。
そこはだいぶ山奥だったので、2疋の犬は恐ろしさゆえか、
めまいを起こし泡を吐いて死んでしまった。

犬が死んだというのに2人は「2千4百円の損害だ」と、
金額のことばかり気にしている。

お腹は空いたし獲物は見つからないし帰ろうと思っても、
戻る道も分からない。

その時ふとうしろを見ると、『山猫軒』と書かれた札の
西洋料理店が建っていた。
玄関には
「どなたもお入りください。」
と、書かれている。
2人はただでご馳走してもらえると喜んでなかへ入ると、今度は
「肥った方や若い方は、大歓迎いたします」
とある。
その料理店には扉がたくさんあり、そこにはすべてメッセージが書かれていた。

「当軒は注文の多い料理店ですが、ご承知ください」

「注文は多いでしょうが、どうかこらえてください」

「ここで髪を整えて、くつの泥を落してください」

「鉄砲と弾丸は置いてください」

「クリームを顔や手足に塗ってください」

「料理はすぐできますから、頭に瓶の中の香水を
振りかけてください」

「注文はこれで最後です。からだ中に、壺の中の塩を
よくもみ込んでください」

それまでそれらのメッセージを好意的に受け止めていた2人だったが、
だんだん不信感が募り、料理店の真の意味を悟って震え出す。
ものも言えず、逃げ出そうとするが、うしろの戸は開かず……

岩手県花巻に生まれた賢治は、農民の生活向上をめざし粉骨砕身するも、
理想かなわぬまま肺結核悪化により他界。
生前刊行されたのは、詩集『春と修羅』と、童話集『注文の多い料理店』
のみで、本書はその唯一の児童文学短編集であり、『銀河鉄道の夜』
『風の又三郎』とともに賢治の代表作である。


注文の多い料理店
(新潮文庫)

(1990/05/29)
宮沢 賢治
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

レインツリーの国 有川 浩 

レインツリーの国

大学を卒業し、関西から上京して入社3年めの向坂伸行は、
中学生のころに読んだライトノベルシリーズのラストを
どう受け止めていいか、ほかの人はどう感じているのか、
ノートパソコンで検索してみた。
しかし古いタイトルのためか、なかなか見つからないなか、
何ページか送ってようやく出会った。

そのブログには
「滑り出しはSFアクション。主人公は当時の私と同じ高校生たち。
その高校生たちが謎の組織にさらわれたヒロインを取り返そうと、
敵地へ乗り込む。
大人たちに立ち向かい、ハチャメチャを繰り返すが、最後に
主人公カップルは決定的に引き裂かれる。
ヒロインが追手から逃げる生活を拒否し、彼に別れを告げる
救いようのないラストに深く傷き、大好きだったその作品は
読み返せない本になってしまった。
けれど、10年経って、あのとき別れを選んだヒロインの気持ちが
分かるような気がして、ようやく宿題が終わったと感じた」
と、書かれていた。

ブログのタイトルは『レインツリーの国』
ひとみ、都内在住、2X歳、女性とある。
メールアドレスも載っていた。

ようやく出会えた物語再開への扉。
伸行はひとみに関西弁でメールを送ることにし、
この作品『フェアリーゲーム』の感想を聞き、自分の思いも
伝えたことで、伸行にとってこの行為は完結したと思っていた。

ところが翌日、『ひとみ』という名前でメールが届いたのである。

1 直接会うのが駄目やったら、!せめて電話だけでもどうかな。
2 「……重量オーバーだったんですね」
3 傷つけた埋め合わせに自信持たせてやろうなんて本当に親切で
優しくてありがとう。
4 「ごめんな、君が泣いてくれて気持ちええわ」
5 歓喜の国
の、5章で構成され、著者にとって初のシリーズ物となった『図書館戦争』
シリーズ2作目の『図書館内乱』と内容が一部リンクしている青春恋ものがたり。

今から3年ほど前のこと、友人から本書をいただいた。
当時わたしは失業中で、何社か就職試験を受けつつ、会社員になるか、
個人事業主になるか、選択を迫られていた時期でもあった。

今でもなかなか成長できないけれど、当時も何気ないひとこと、何気ない
行動が周りの人たちに不快感を及ぼしたり、傷つけてしまうことが多かった。
自戒の毎日に、『レインツリーの国』から教わったのは「もっと広く深く
想像力を働かせなければ」という思い。

それからわたしは個人事業主になることを選び、オフィス名を決める際、
タイトルから一部を使わせていただいた、思い入れのある1書。

レインツリーの国 (新潮文庫)レインツリーの国
(新潮文庫)

(2009/06/27)
有川 浩
商品詳細を見る

テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

野沢菜漬けと信州人

野沢菜漬け

信州人は漬け物好き。
名物の野沢菜漬けから始まって、具だくさんの朝鮮漬けに黄色が
鮮やかなべっこう漬け、歯ごたえがやみつきになるたくあん漬けや
酒粕の風味豊かな本瓜の粕漬けなどなど。

体力を使う農作業において “お小昼”と呼ばれるお茶の時間に、
煮物や和菓子などとともに、漬け物は必需品。

農家の多いこの地域では、晩秋から初冬にかけて、漬け込み作業に
追われる光景は信州の風物詩でもある。

わたしも以前、野沢菜漬けのお手伝いをしたことがある。
チラチラ粉雪の舞う寒さ厳しい11月下旬、大きな樽に水を張り、
野沢菜を1束ずつ洗ってビニールシートに並べ、1昼夜置いて水を切り、
翌日漬け物用の容器に塩や味噌、氷砂糖に生姜やりんごなどと
ともに漬け込んでいく。

半月ほどして水が上がってくれば食べられる。

本格的な冬になりつつある時季にいただく初野沢菜漬けの味は最高で、
炊きたてのご飯が何杯でもすすんでしまう。

でも実は、お手伝いした翌日、あまりの寒さからか40度近い熱を
出し寝込んでしまった。
それ以降漬け込み作業は遠慮させていただくことになり、一抹の
淋しさを感じるこの時季に、ご近所の方から野沢菜を1束いただいた。
もちろん嬉しい気持ちはあるものの、漬け物用の容器がないし、
どうしようかと思案しながら浮かんだのが、ポリ袋を容器代わりにした
1株だけの塩麹漬けと、油揚げを加えた炒め煮。

翌日、炊きたてのご飯と野沢菜の塩麹漬け&炒め煮での朝食に、
自然と頬もゆるみ、やっぱり何杯もおかわりしてしまった。

食べ過ぎだぁ〜!
寒さに対抗して脂肪が付きやすいこの季節、少しダイエットせねばと
自戒しつつ、極寒の朝ではあるけれど、お腹に幸せを詰め込んだし、
さぁ、はりきって出勤しよう!


テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

薄暗い花園 岩井志麻子

薄暗い花園

『薄暗い花園』・パートタイムの恐喝
脱色し過ぎてパサパサに痛んだキャラメル色の髪。
ひどく筋張った首筋、ひっつめた髪によってさらに鋭く感じる目つき、
痴漢も敬遠しそうな30前のジュンコが、マイコとカオル3人で話を
するとき、会話の合間合間に必ず「あのこと」を仄めかす。
さりげなく付け加えるのである。
それに対して、マイコとカオルははぐらかすことなく、
曖昧な笑顔で対応しなければならない。

これといった特徴のない地方都市のコーヒーショップ。
3人もまたありふれた主婦たちだった。

これからパートだからと立ち去ろうとするマイコも、歯医者の予約が
あるからと席を立ったカオルも、1,300円を置いてお店を出ていった。
2人とも、ジュンコの目付きに射すくめられ「あのこと」を
思い出さずにはいられずに。
子どもを幼稚園に送ったあと、3人はコーヒーショップに入り、
他愛もない話をして、マイコとカオルはコーヒー代のほかに
1,000円をジュンコに置いて帰るのである。

高校生の頃から万引きが癖になっていたマイコは、短大時代に
スーパー××で万引きしていたところ、キャラメル色に髪を
染めた女店員に捕まった。
高校卒業後、勢いで結婚したカオルは、働かない夫へのストレスで
過食と拒食を繰り返し、やはりスーパー××で、キャラメル色に
髪を染めた女に捕まった。

そして数年後、出会ってしまったのだ。
偶然なのか、巡り合わせなのか……
キャラメル色の髪をした女が言う
「子どもが幼稚園に通う2年間、毎日1,000円ずつちょうだい」

因果なのか、ただの偶然なのか……

ほかに『果てしない密室』『架空の地図』『美味の意味』
『めくるめく暗い過去』『憧れの地獄』『身近な異境』『お約束の悪夢』
など、それぞれのテーマに沿った24編が綴られたホラー短編集。

現実と夢、生と死、過去と未来が曖昧な世界。
甘美な地獄と妖しい狂気。
底知れぬ心理に衝撃と酩酊にのまれる。
日常生活に潜んでいる落とし穴。
気づかないうちに、目に見えない恐怖に包まれる怪異百ものがたり。

薄暗い花園薄暗い花園
(2003/09)
岩井 志麻子
商品詳細を見る

テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

窓際の……じゃなくて……あぜ道のトットちゃん!

とっと


田畑を切り裂いたように続く狭い一本道を、北アルプスめがけて
車を走らせる。
我が家からいちばん近いスーパーマーケットへの近道である。
当然信号など皆無なので、フラストレーションも皆無。

春になると水がはられた田んぼに逆さ常念が写り、夏が過ぎれば
たわわに実った稲穂がこうべを垂れる。

四季を満喫できるその田舎道を走る気分は爽快そのもの。
はじめてそこを通ったのがいつだったか思い出せないが、
あるときふと目を奪われた光景。

「えっ、黒柳さん⁈」
みごとにカットされたヘアースタイル?に、思わず急停車し、
ケータイを向けパシャパシャ数枚写メを撮る。

ほぼ毎日通っていると、少しずつ伸びる髪……もとい……枝葉の
観察も半端ではない。
輪郭が崩れそうに伸びてくると、そろそろカットの時期では?と、
いらぬお節介心が頭をもたげてしまうが、そんな気持ちを
見透かしたように、また綺麗に切り揃えられている。
手入れをされている持ち主の方は、徹子ファンなんだろうかと思いつつ、
わたしは「あぜ道のトットちゃん」と勝手に命名まてしてしまった。

農作業の合間の休憩に利用するのか、その真下にはベンチシートが置かれている。

今は色鮮やかな紅葉の季節。
紅く色づいた「あぜ道のトットちゃん」の下で、お弁当を広げたいなぁ!

テーマ : いいもの見つけた
ジャンル : 日記

明暗 漫画で読破 夏目漱石・作

明暗 漫画で読破

……偶然とは原因が複雑すぎて、どうしてそうなったのか
検討もつかないことをいうらしい……

なぜあのひとは他のひとのもとに嫁ぎ、俺はあの女を嫁に
したんだろうと、津田由雄は思う。
この身の上も偶然なのだろうか?

由雄は愛していた清子に突然別れを告げられ、それゆえか
由雄もまた吉川夫人にすすめられるまま延子と結婚する。
経済的な結婚生活は会社から給賃をもらいつつ、官職を勤めあげ
京都で隠居中の父親から仕送りしてもらって成りたっていた。

清子への思いを気取られたくないため、裕福な育ちの延子を
甘やかし贅沢な生活をしていることが、由雄の給賃だけでは
やっていけない原因だった。
それに加え、心が派手で贅沢、自分の持っているものに
満足しないという由雄の性格も手伝っている。

妹のお秀を介し、毎月生活費の足りない分を仕送りとして
補うから、賞与が出たら、いくらかでも返済するというのが、
厳格な父との条件だった。
ところが自立できない由雄が、いっこうに約束を守らず、
返済する様子を見せないため、父もお秀も激怒し、
仕送りを止められてしまったのである。

半年少し前、岡本の家に同居していた延子は、久しぶりに
京都の両親のもとに戻った折り、父の使いで津田家を訪れ、
由雄と出会う。
そして由雄の人柄に惹かれ、猛烈にアプローチした。
由雄が吉川家に世話になっていたこともあり、岡本家と
吉川家が懇意にしていたため結婚にいたったが、夫婦になって半年、
延子は由雄に愛されているのか不安は募る。
由雄は自分の未来のために、あくまで外向きにいい夫婦を
通さなければならなかった。

由雄の心から、決して離れることのない清子の存在。
そんな由雄の気持ちを見抜いている吉川夫人から、
あな痔の手術で入院している由雄に
「すべての問題の原因は、清子さんへの未練に
あるのではなくて?過去を清算しなさい‼︎
すぐに清子さんに会いに行きなさい!」と言いつけられる。

由雄は退院したその足で、流産し湯河原でひとり療養しているという
清子に会いに旅館に入るが、なかなか決心することができず、
館内をさまよい歩いていた。
すると、かすかな音を耳にし、階段の上を見上げる。

そこには、昔と変わらぬあのひとが。
過去からの夢の続きだろうか?
まるで覚めることのない夢の中にいるようだ。

《未完》

好きな作家をあげろと言われれば、両手足の指を折っても足りない。

好きという領域を超越して崇拝している方が、文豪夏目漱石先生!

日課であるAmazonチェック。
その日替わりセールに本書が載っていたのを目にし、すぐにクリック。
あまのじゃくのわたしは、あまりにも有名な『坊っちゃん』と
『吾輩は猫である』以外の漱石作品は随分昔に読破した。
なかでも遺作となり、未完のまま終わった『明暗』は、
通学中の電車に揺られながら、最終ページを見つめ、
決してあるはずのない、その先のページを必死でめくっていた。

漫画としてよみがえった『明暗』に触れ、痛切に思う。
……《もう終わった恋だと
何度も忘れようとした
しかしいまだに考えてしまう
なぜ彼女が俺から離れてしまったのか
彼女と別れて1年
今も分からないままだ
あんなに幸せだったのに
あんなに愛し合っていたのに
彼女はなにも言わずに、別の男のもとに嫁いでしまった》
……清子の気持ちを知りたい、小説の続きに巡り会いたいと。

明暗 漫画で読破明暗 漫画で読破
夏目漱石
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

お鍋と家康と松本一本ねぎ

ねぎ1


我が家の庭から、細い用水路を隔てたお隣りさんの畑には、
初夏になると青々としたとうもろこしの葉が天に向かって伸び、
夏が終わるころには、その横で紫色に輝く茄子が実をつける。

そして今、晩秋の朝陽に映えているのが、この地の伝統野菜である
松本一本ねぎ。
育てているのは、同じ隣組の気さくなおじさん。

今朝、町内清掃が済んだ帰りしな、そのおじさんに
「ようやく霜が降りたでね、2、3回霜にあたると、ねぎは柔らかくなって
おいしくなるだ。あとで庭に置いとくね」という、嬉しいお言葉をいただく。

買い物から帰ると、朝おっしゃった通り、ウッドデッキの脇に紐で
束ねられた數十本のねぎが置かれていた。

松本一本ねぎはその歴史も古く、徳川家康が江戸城のお正月に必ず口にした、
兎の吸い物にも添えられていたという由緒ある地場産野菜である。
白ねぎの部分が太くて長く、甘みが強くて柔らかいのでお鍋に最適。

暦も11月を迎え、寒さもひとしお。
折しも温水ファンヒーターを出したばかり。
この季節、恋しくなる土鍋に鉄鍋。
今日の夕ご飯は、ねぎたっぷり豚チゲ鍋で決まり!

テーマ : 日々のつれづれ
ジャンル : 日記

サルサソース

サルサ

作り方は画像をクリックしYouTubeにて

テーマ : レシピ
ジャンル : グルメ

くじとラッキーセブン

セブン5


その昔、我が故郷にも健在していた駄菓子屋さんは、
当時、小学生の社交の場になっていた。
腰の曲がったおばあさんが番をしているお店には必ずくじがあり、
小学校から帰ると、お小遣いを握りしめ、勇んで通ったものである。

小さな箱から、三角形に折られた色つきの紙を引く。
スーパーボールやぬいぐるみにお菓子などが当たるくじは、
1から100ぐらいまでの数字が書いてあり、引いた三角くじの
数字に合わせた景品と交換してもらう。

大人から見れば、ガラクタのような景品に夢中になっていた幼少期。
と思いながら、
「三つ子の魂百まで」だろうか、いまだにくじが好きなのである。

セブンイレブンの700円くじ情報には、常にアンテナを張っている××歳の現在。
キャンペーンを耳にするやお店に走り、日用品や嗜好品などを
買いだめして金額をかせぎ、くじに挑む。
前回はワンピースのクリアホルダーからはじまり、スポーツドリンクや
スナック菓子に栄養ドリンクなど、83%の景品取得に、その日は
1日中ラッキー気分に浸っていた。

けれど冷静に見つめ直してみると、幼少期も大人になった今も
大差ないことに気づく。
精神的に成長していない自分を顧み反省。

と思ってはいても、またセブンのくじ情報を耳にすれば、
買い物カゴにたくさんの日用品を重ねているに違いない。

テーマ : 日々のつれづれ
ジャンル : 日記

嫉妬 森瑤子

嫉妬のコピー  

『嫉妬』
ストレートなタイトルに惹き寄せられ、手に取った。

「眠りの深い霧の底から、ゆっくりと浮かび上ってくる過程に、
優しい風の予感があった。
すっかり寝覚めた時、彼女の口元には微笑が浮んでいた。
薄絹のヴェールが顔の上をそっと撫でていくひんやりと
冷たい感触。季節が変わったのだ」

なんて美しい文章。
その光景を想像させる誘引力。
ときの感覚を失いながら、『嫉妬』のなかにのめり込んでいた。

麻衣は海の見える、友人の別荘のベッドの中にいた。
ベッドの一方の端には、彼女の夫・壮一郎が長い肢を持て余しながら
眠っている。
あまりにも無防備なその姿を見ると、麻衣はちょっと切ない気持ちになる。

胸をときめかすような感情はなくなってしまったが、16年の結婚生活が
築いた穏やかな喜びがあると、麻衣は感じている。

ふたりが海辺を散歩していると、突然若い男女が背後から現れた。
手と足の長い混血の男性と、少女のような平らな躰つきの女性。
2組の男女が簡単に紹介しあい、壮一郎はその男性アラン・オサダに
「バーベキューに来ませんか」と誘う。
若い男女は礼を言い、岩場に向かって降りていった。

麻衣と壮一郎が嫌な胸騒ぎを覚え、背後の岩棚を振り返ると、
岩の上にいるべき男女の姿が忽然と消えていた。
壮一郎は持っていた靴を投げ捨てると、沖に向けて走り出し、
麻衣に消防署に知らせるよう叫びながら、波の中に消えた。
夫の姿が無力であり、愚行な行為と感じ、3つの死が脳裏を過ぎりながら、
麻衣は絶望とともに別荘へと走る。

別荘の持ち主である北原たちと現場に戻ると、そこには3人の
人間が横たわっていた。

少女は何人かが交代で人工呼吸を施している。
アランはひとりで座っていることもできない状態だった。
ときどき無意識にアランにしがみつかれながら、少女を抱いて
泳いできた壮一郎は、死の恐怖ゆえか、胃の中の物をすべて吐いた。

「大丈夫よ」と背中を撫でる麻衣に、壮一郎は啜り泣きながら、
苦しげに告げる。
「僕には他に、女がいる……」

揺れ動き、もだき苦しむ感情の渦。
悪夢。
嫉妬という怪物が蠢きながら、こんなにも多彩な表現に、
日本語の美を再認識する驚きと悦び。
『嫉妬』『凪の光景』『彼女の問題』『海豚』からなる恋愛小説集。


嫉妬 (集英社文庫)嫉 妬
(集英社文庫)

(1984/01/20)
森 瑤子
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

クラス会と同級会とグルメの輪

酒漬け物

「どうきゅうかい」とキーを押し変換する。
ストレートに「同級会」と変換されないことに違和感を覚えつつ、
その言葉が方言だと知ったのはいつだったろうか。

それからは県外の友人と話すときには「クラス会」と言うようにしているものの、
なんとなくしっくりこない。
どこかニュアンスが違うような気がしてしまう。

だから地元の仲間内では「クラス会」ではなく、「同級会」を使う。

つい先日も、中学の同級生からプチ同級会のお誘いを受けた。

場所は駅前の、珍しい飲食を提供してくれるおしゃれな居酒屋。
6時30分に退社し、7時前の電車に飛び乗る。
開始時間は6時だったから、当然わたしが最後の出席者だった。

プチ同級会というより、プチプチ同級会ぐらいの参加者5名で、
再乾杯をして中学の頃の話に花が咲く。

地元造り酒屋の、このお店限定の日本酒を注文すると、テーブルに
置かれた大きめのぐいのみに、オリジナルラベルが貼られた一升瓶を傾け、
表面張力で山並みにつがれるお馴染みのパフォーマンスに、さらに場が盛り上がる。

子宝サワーやボラのお刺身に鯛の蕪蒸しなどの超凡なメニューに、
タイムスリップしていた話題も、いつしか「今」に戻ってきて、
お酒もお料理もよりすすむ。

次回は上高地線の貸し切りお座敷列車で忘年会ねと、話がまとまり
プチプチ同級会の幕が閉じられることとなったが、宴の途中でお邪魔した
化粧室には、“ワインBAR松本バル”のカードがうずたかく積まれていた。
ここでも繋がっているグルメの輪に、再々感激の秋の夜でした。


テーマ : 日々のつれづれ
ジャンル : 日記

サクッと読める!「脳」の話 名月 論

サクッと読める!「脳」の話

脳の基本として、男性の平均的重さは1,500g。
ちなみにアインシュタインの脳は1,230g、マッコウクジラは
9kgであり、知能と大きさは単純に比例しない。

脳のなかには1千億超の神経細胞が複雑にネットワークをなしているが、
その割合は全体の10%、残りはグリア細胞というものである。

硬度は豆腐かプリン程度の柔らかさで、構造は、頭蓋骨・硬膜・
くも膜・脳脊髄液・軟膜で覆われた脳が浮かんでいる。

拍動は活発で、血流の15%も占め、酸素やエネルギーも全身の20%を必要とする。
そして脆くワガママで好き嫌いが多く、ブドウ糖しかエネルギーとして
受け付けない。
大人の脳の一部が死んでしまった場合、再生することはできず、
脆くかけがえがないのが脳である。

当然ながら専門用語も多く難解な部分もあるが、知らなかった知識に驚嘆と感嘆。
たとえば……
脳は痛みを感じない。
下垂体はホルモンの分泌を促す場所で、ホルモンという言葉はもともと
ギリシャ語で「刺激する」「呼び覚ます」の意味を持つホルマオという
単語が起源である。
脳の時間制限、心停止5分後に死が確実になる。
瞳孔散大は脳が異常な状態で生命危機のサイン。
脳死と植物状態の違い。
脳死状態でも身体を動かすことがある。
ほかの生物が持ち得なかった創造性を獲得した根源となる場所が前頭連合野。
それは集中力・計画力・意思決定力・洞察力・判断力・想起力など、
もっとも高度な認知能力を制御する中枢。
情熱的な愛で活性化する部位と、その他の愛で活性化する部位は違う。
……などなど

人間の夢を実現できそうな偉大な脳。
脳と機械をつなぐ、映画やアニメでも昔からあったアイデア。
脳とインターネットを繋げたり、脳波で機械を制御すれば、手足を
失った人が自由自在に義肢義足を動かせるという、現実味を帯びた夢。

本書は著者のブログ「ある脳外科医のぼやき」から、『脳という臓器』
『脳とこころ』『脳と機械の未来』に再編集した、脳そのものと
明るい近未来が描かれた医療解説書。

サクッと読める!「脳」の話サクッと読める!「脳」の話
(2013/06/23)
名月 論
商品詳細を見る




テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

アボカド豆腐チャイニーズサラダ

アボカド豆腐チャイニーズサラダ1

作り方は画像をクリックしYouTubeにて

テーマ : 簡単レシピ
ジャンル : グルメ

自然に身に付く!1万語英語多読

1万語英語多読  

あるとき、頻繁に海外出張をしている友人に言われた。
「今の時代、小学生に通わせるなら、学習塾ではなく英会話教室だよ。
都会では入社条件に英会話力を求める会社が多いから」と。

ふ〜ん、そうなんだぁ。田舎暮らしだけど、わたしもできれば転職を
希望しているし、習ってみようかなという気になる。

わたしの周りには、なぜかグローバルな友人が多い。
半年間海外に滞在し、渡航費を貯めるため帰国し半年間日本で働き、
また半年海外に滞在する友人。
日本語訳するまで待ちきれず、ハリーポッターを原書で読む友人。
カナダ在住の姉妹を持つ友人。
ひとりでイングランド旅行する友人などなど。

そこでその中のひとりに英会話上達の方法を訊いてみると、
「ラジオやテレビ、あるいはインターネットなどで、
常にイングリッシュに囲まれていること」とのこと。
それから彼女が通っている英会話教室も教えてもらう。

とりあえず島国日本で、身近にネイティブイングリッシュに
触れてみたくて、教室のドアをくぐってみた。

先生はイギリス出身でベッカム似の36歳。
生徒は同年代の女性とわたしで、ほぼパーソナル状態。
初日は自己紹介やゲームなど。
宿題は簡単なイラストを描き、裏に描いたイラストの英文をつづる。
宿題発表のあとは、週末をどう過ごしたか会話していく。

わたしの場合、ほとんど中学英語を思い出す程度のレベルだったけれど、
母国語ではない英語圏の方と会話できることがとても楽しかった。

諸事情で教室に通えなくなってから数年。
ときどきあの楽しかった日々を思い出しながら、Amazonの日替わり
セールをクリックすると、今日は小説でもエッセイでもなく、
『自然に身に付く!1万語英語多読』という英語読本が推されていた。
また楽しかった日々が、少しでもよみがえるかもしれないと思い購入する。

表紙をめくると『はじめに』の章に載っていた
SSS式多読の3原則
1. 辞書は引かない
2. 分からないところは飛ばして前へ進む
3. つまらなくなったら止める
……なんて素晴らしい原則!

そして早速、かんたんな英語の絵本に突入。
最初のものがたりは Little Black Sambo.
お〜、幼稚園のときに何度も何度も読んだ〜!

カラーとモノクロの挿絵に、とても簡単な英文。
幼稚園の教室と英会話クラスが同時に映し出されるような懐かしさに包まれる。

Little Black Sambo を読み終わると、
The Story of Little Black Mingo.
The Cock and the Bean.
The Goat and theRam.
The Hungry Wolf.
The Peasant and the Bear.
The Dog and the Cock.
King Frost.
The Bear's Paw.
Little Black Sambo
The Bear and the Old Man's Daughters.
The Straw Ox
The Fox and the Blackbird.
と続く、全12編、9,827語。

英語の苦手なわたしでも、なんとなくストーリーが浮かび、
イングリッシュを楽しめる簡単英語絵本。

自然に身につく!
1万語英語多読

(2012/11/19)
HELEN BANNERMAN、
NEVILL FORBES 他
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

耳袋秘帖 妖談うしろ猫 風野真知雄

耳袋秘帖 妖談うしろ猫

南町奉行根岸肥前守鎮衛(ねぎしひぜんのかみやすもり)は、
いっぷう変わったところがある。
白い着物姿で、筵の上にとぼけた顔で座っている。
そして「頑吉、久しぶりだな」と、お白洲で隣りに
座っているヤクザに声をかけた。
頑吉は根岸に鋭い視線を投げたが、根岸が懐かしい昔馴染みの
悪たれ銕蔵だと気づくと、力なく言葉を失った。
そして素直に殺しを白状した。

根岸は足取り重く座敷に上がり、刑を告げる。
「板橋宿の頑吉。打ち首、獄門」
一件落着し、去ろうとする頑吉に根岸は「じゃあな、頑吉」と
声をかけながら思う、春はいつも切ない。

南町奉行所の本所深川見回り同心、椀田豪蔵は謹慎処分を
受けてもう2か月になる。
女や年寄りの命さえ奪いかねない狼藉を犯した若い旗本をぶちのめし
捕縛したが、そのおやじがとびきりの大物だったためである。

そんな折り、駿河台の根岸の私邸に呼び出される。
根岸は石高500石の旗本であるが、出身は武士ではなく、
身分を買ったという噂があった。

私邸に着くと、どことなく猫を思わせる宮尾玄四郎が出迎え、
椀田は書斎に案内される。
本棚の上にいる茶トラ猫を指し、宮尾は「こいつはうしろ猫
なのさ」と言う。
いつも人に背中を向け、絶対に前の顔を見せないらしい。

やがて根岸がやってきた。
仏像を思い出させるほど、大きな耳だ。
椀田は根岸から隠密同心の仕事を仰せつかる。
命を受けた事件とは、瓦問屋のもろこし屋で起きた押し込みで、
金は手つかずのまま伝次郎が殺害されたのだが、殺しが発覚した朝に、
殺されたはずの伝次郎を見たものがいたという。

事件とそっくりの話が『耳袋』の『意念奇談のこと』に書かれていた。
根岸が長年書き続けた随筆集が『耳袋』であり、差し支えのあるものは
秘帖版として、門外不出となっている。

不思議なことに、最近起きた事件は『耳袋』に載っているものがたりと
酷似しているものが多い。
突然周囲の色が変わってしまう『奇病のこと』や、たいそう立派なお屋敷の
あるじが、卑しき荷物持ちをしている『志ある農家のこと』など。

さまざまな事件が伏線として描かれるなか、瓦問屋もろこし屋の事件で、
「かのち」という書き付けを残して失踪した全州堂の若旦那幸之助と
虚無僧が目撃され、椀田豪蔵と宮尾玄四郎が根岸の配下となって、
事件を究明していく。

魅力的な登場人物たち。
決して自分の顔を見せないよう後ろを向いているが、いざというときには
主人を守るため、野性ならではの惚れ惚れするような活躍をする
茶トラ猫のうしろう。
異界を見ているような屋敷・奉行所の私邸にいる黒猫のお鈴。
アブノーマルがこうじて拷問好きになった吟味方与力森沢新蔵。
森沢の上をいく冷徹で残忍な神木寿三郎。
盲目のときより、見えるようになった方が怖いと言う座頭の山二。
甘く切ない夜の匂いのする音曲、誘惑の入った音曲を尺八で奏でる少女。
唯一うしろうの顔を見たことがある、根岸の孫であり、
おじいさま思いの篤五郎。
根岸とは若い男と女のような恋仲にある、売れっ子深川芸者の力丸。
眉目麗しいからか気が多過ぎ、上遠野流手裏剣の達人である宮尾玄四郎。
恐ろしく腕力があり、柔術に優れた椀田豪蔵。
あだなと同じ大きな耳を持つ赤鬼の刺青を入れ、闇の者に狙われ、
危機に瀕しているさなかでさえ、「いい夜桜じゃのう」と
のたまうような飄々とした人格の根岸肥前守鎮衛。

「かのち」の意味とは?
身の丈7尺もある虚無僧とは?
闇の者の正体とは?

季節は、美しいばかりで、優しさのかけらもない春。
江戸の怪事件に挑む『耳袋』シリーズ第1巻。

耳袋秘帖 妖談うしろ猫: 1 (耳袋秘帖・妖談シリーズ)耳袋秘帖 妖談うしろ猫: 1
(耳袋秘帖・妖談シリーズ)

(2012/09/20)
風野 真知雄
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テーマ : 本の虫
ジャンル : 小説・文学

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Hollyzard

Author:Hollyzard
本が恋人です。
料理は大嫌いですが、でも実は天才なんです(笑)。
外でおいしいお料理に出会うと、勝手にアレンジしてマイレシピにしてしまいます。